未読百選[6]

2005年5月29日の日曜版に池澤夏樹評で[82]『宮本常一写真・日記集成 上・下・別巻』(毎日新聞社・計6万円)が紹介されていました。この三巻本は主に1955年から1981年までの宮本常一の写真と日記を収め、戦前からそれまでの分を補ったものらしい。池澤さんが≪ぼくの人生の相当部分は宮本の活動期と重なっている。≫と書いていますが、ぼくだってそうです。1981年と言えば、田中康夫が『なんとなくクリスタル』でデビューした年ですね。まだバブルは到来しないけれど、急激にこの国の風景が変貌しつつあるギリギリのところでしょうか、『好き好き大好き超愛している』の舞城王太郎風に言えば、人間関係も何もかも「メタ化」に向かう一歩のデジタル足跡が姿を見せ始める。
あの頃は、って言いたくなる、この時代は極私的にも記憶としてアナログ保存されている。そりゃあそうでしょう。指折れば、小学生の餓鬼が壮年になる26年間なんだから…。

 では、いったい過去とは何か。宮本の大きな仕事の一つに、『日本残酷物語』(全五冊 平凡社ライブラリー)という民衆史の企画があった。過激なタイトルはそのころ評判になったヤコッペティの映画に由来するものだが、過去の庶民の生活苦を表す語として違和感はない。左翼史観に拠るまでもhなく、貧民の暮しは辛かった。あるいは人はそう語った。/その一方で、この写真を見て、日記に彼の足跡をたどりながら、なんとよい時代だったのだろうとも思わざるを得ないのだ。この矛盾はどういうことだろう。

池澤夏樹より多分、この写真を見ると、「なんと良き時代だったんだろう」と思ってしまうだろうなぁ…。図書館にリクエストして置こう。