大杉栄『日本脱出記・獄中記』

本棚に1970年刊の現代思潮社大杉栄の『日本脱出記・獄中記』があったので読み始めるととまらない。40年前に購入したものですが、面白くて読みやすくて、ユーモアもあって、やっぱし大杉栄ってモテ系だよねぇとつくづく思う。何か明るい。甘粕正彦とは友だちになりたいとは思わないけれど、大杉栄には天性な「良きもの」があると思いました。
「入獄から追放まで」の章で、パリの牢から東京の娘魔子に宛てて電報を打とうとして出来上がった草稿がこれ。

魔子よ、魔子
パパは今
世界に名高い
パリの牢やラ・サンテに。

だが、魔子よ、心配するな
西洋料理の御馳走たべて
チョコレートなめて
葉巻きスパスパソファの上に。

そしてこの
牢やのお陰で
喜べ、魔子よ
パパはすぐ帰る。

おみやげどっさり、うんとこしょ
お菓子におべべにキスにキス
踊って待ってよ
待てよ、魔子、魔子。

 そして僕はその日一日、室の中をぶらぶらしながらこの歌のような文句を大きな声で歌って暮らした。そして妙なことには、別にちっとこ悲しいことはなかったのだが、そうして歌っていると涙がほろほろ出て来た。声が慄えて、とめどなく涙が出て来た。(p101~2)

書影がないけれど装本が「皮かぶり?」の装丁でいいんだよねぇ。いかにも現代思潮社版っていう感じ。