<働く>映画・本屋/「日本文化論」のインチキ

日本文化論のインチキ (幻冬舎新書)「今泉棚」とリブロの時代―出版人に聞く〈1〉 (出版人に聞く 1)ゲゲゲの女房提灯 ゲゲゲの鬼太郎シリーズ 「目玉おやじ提灯(茶碗風呂)」電池式企業買収の裏側―M&A入門 (新潮新書)
部屋の掃除をしながら疲れると小谷野敦の『日本文化論のインチキ』を読んでいます。説得力のある記述でおもわずナットクするところがあります。
小谷野さんの怒りは僕的には<ユーモア>を感じるところがあって例えば、好きな「向田邦子」がこんな風に断罪されていても「まあ、そうだろう」と受け入れつつ病室では向田邦子のエッセイを良く繙いています。いい気分になるのです。アカンかなぁ…。

 暗黒の時代と認識されていた、昭和の戦前を、美化する人はそれまでにもいたが、日本の知識的大衆が、昭和戦前について、美化されたイメージを持つようになった大きな要因は、これらの「向田邦子風ドラマ」であったろうと、私は思う。それらが、ほぼ三十年にわたって続いているのである。
 本来なら、「左翼」が、もっとこういう「戦前美化ドラマ」を批判すべきなのだが、それが(たとえば新聞などで)あまりなされていないのは、向田が死んでいるためと、彼らに政治的意図がないためもあろうが、いちばん大きいのは、それらのドラマでは、軍国主義や戦争が「悪」として描かれているからだろう。そうである以上、現在の凡庸な左翼には、批判できない。(p47)

それから、山田洋次監督の映画『母べえ』が同じ文脈でやりだまにあげられている。

 あるいは、NHKの朝の連続テレビ小説と呼ばれるドラマが、戦前を描くときは、たいてい、この「中産階級」の姿を描く。なお「中産階級」というのは、最近の日本人が「中流」だと思っているそれではない。ちゃんと土地家屋を持ち、財産も相応にあり、女中や下男を置いている家のことだ。『マー姉ちゃん』というのは、漫画家・長谷川町子の姉を主人公としたドラマだったが、この長谷川家というのは、叔父が帝大卒の代議士をしていたという立派な家柄なのである。
 むろん、その背後には、都会、農村を問わず、人数としては遙かに多い、下層階級の人々がいたのだが、こうしたドラマは、そういう姿を描かない。だから、「昔は良かった」と思う人々は、今でいえば「お金持ち」の家庭の家庭を見て、それを当時の一般的日本人だと思っていたりするのだ。
 「日本文化論」の多くが怪しいのは、結局それらが扱っている題材(小説や実録)が、こうした、前近代なら公家、武家、豪商、近代ならエリートたちの生活に取材して構成されていることがほとんどだからである。

 ところで、本日、エル・ライブラリーからメールマガジンが送信されました。
 エル・ライブラリーでは、働く姿を描いて感動的なお奨め映画について企画イベントをしていますが、
 映画に限定しないでテレビドラマにもアンテナを広げると膨大な資料がヒットすると思うが視聴するのはなかなか難しいでしょうねぇ。
 NHKの朝の連続小説テレビドラマにしたところで「ゲゲゲの女房」のヒットの底流には「明るさ」、「元気の良さ」、登場するゲゲゲの女房水木しげるの俳優人達も「爽やかで華やかで健康さ」があるわけで、朝食のつまみに良い。まあ、戦前を舞台とした暗い庶民の「朝の連続小説テレビ」ドラマがあってもいいとは思うけれど、視聴率は期待出来ないでしょう。

 十一月二十三日は「勤労感謝の日」とされて国民の祝日になっている。これはもともと、朝廷における新嘗祭という、稲の実りを祝う行事の日を祝日にしたものだが、私が高校生から大学生のころ、NHK総合テレビでは、祝日の朝には映画を放送しており、勤労感謝の日には、労働者を描いた映画を放送した。今井正の『米』とか家城巳代治の『裸の太陽』などで、私はけっこう好んで観ていた。特に、鉄道機関士を描いた後者は、名画である。
 しかし、衛星放送ができて、映画はもっぱらそちらで放送するようになり、さらに社会主義の退潮やソ連の崩壊ゆえか、こういう「労働者映画」が放送されることは滅多になくなった。
 私はこれを、残念なことだと思っている。
 戦後、日本の知識人の多くが、マルクス主義を信奉していた時代に、こういう「労働者映画」はよく作られ、かつ評価されたものだ。また、戦後の児童文学界は、日教組共産党に結びついて、読書感想文課題図書として、左翼的な児童文学作家による、戦争の苦難や、貧しい人々を描いたものをよく読ませていた。
 私は子供心に、そういう読み物をつまらなく感じ、『怪盗ルパン』のような冒険物語のほうをずっと面白く感じたものだが、子供がそう思うのはいいとして、いい大人が、戦前の中産階級の生活を、当時の平均的な家庭だと勘違いするなどというのは、ほとんどお笑い種だ。なのに、なんとなくそういう勘違いをしている日本人は、少なくないのである。(p49~50)

 小谷野敦さんの言う「労働者映画」に「三池 終わらない炭鉱(やま)の物語」もカウントされるとは、思うけれど、今年、三池争議から50年なんだ。

【緊急企画】特別展示開催「三池争議から50年」
このたび、急遽、法政大学大原社会問題研究所のご厚意により、展示会を開催することになりました。おおむね以下の要領で行います。
メルマガ次号では正式に決定した内容をお知らせいたします。
日時 11月10日(水)〜12月18日(土)。土日祝日は休み。ただし、最終日の土曜日は開催。10-17時。毎週金曜日のみ19時まで。
場所 エル・ライブラリー内にて 入場:無料
テーマ 戦後の石炭政策、炭鉱労働安全、三池争議 
展示品 三池炭鉱労組および日本炭鉱労働組合発行物/ビラ、チラシ、指令書等、文献資料/ポスター、 写真、色紙/棍棒、鉢巻など/図書、雑誌、新聞

 書店の組合運動と言えば『「今泉棚」とリブロの時代』で言及しているキディランド労組は本屋業界では運動の先駆けのようなところがあったと思う。上部団体に属していなく単組であったけれど、効果的な運動を行った。組合事務所の運営もみんなの組合費からまかない一切後ろ指さされるスキがなかったですねぇ。会社更生法の適用を受けながら、キディランドそのものの経営も順調で社員たち待遇も大幅にアップした。

 ーー それが原宿のデモなどにつながり、書店業界におけるキディランド労組が名高くなり、その余波が他の書店まで及び、組合設立といった動きにつながっていったのでしょう。
 今泉 時には団体交渉を徹夜してまでやりました。
 会社更生法適用中で、それを仕組んだ連中は絶対に前に出てこない、それで学生運動の延長じゃないけれど、お遊びのニュアンスも含めて色々やってみました。原宿参道のデモもそうだったし、ジグザグでも、机をたたいての要求貫徹、バリケードを作らんばかりのストライキもそうでしたね。ただあんまり先走って、社員が職を失うはめになることだけは避ける方針をとっていました。それに店も売れていましたから。
 ーー 梅田店では玩具がものすごく売れていて、出店の先見の明が当たっていたようですね。
 今泉 それに本では千葉の店もよく売れていましたよ。
 ーー そんな中で今泉さんは書店員としての道を歩み始めた。
 今泉 これも幸いなことに弁護士もキディランドのような商売の管財人の経験はなく、まったくわからず、決算で黒字になっていればいいということでした。要するに急拡大路線に伴う黒字倒産の典型で、キャッシュフローができていなかったのですよ。
 ただ店によっては厳しいところもあった。関内店なんかはアルバイトの学生が好き放題にやっているとお客から思われるほどユニークな品揃えをしていました。スタッフも個性的で楽しかったですね。私が移ってまずフェアなどをやりました。タイトルは「埋もれた現代の名著ーー読んでおくべき「知」の源泉あるいは結論を急がない人のためにーー」で、棚を人間・歴史と社会と芸術、自然などの五つの分野に分けた。この時の棚作りが自分の原型で、すでにキディランドで実践していたことになるかもしれない。ブックリストも作ったりもした。当時としては先駆的だったんじゃないかな。(p24~25)

 確かに関内店では、アルバイトも好き放題にやっていた。仕入の大部分もアルバイトがやっていた。でも、アルバイトの<働く>と<遊び>の境界線が互いに侵入しあっていたが、書店内でのテンションはスゴク高かった。だから「白塗り以前」のヨコハマメリーさんが常連さんになってお仕事の前に文庫なんかを買ってくれたと思う。今泉以前の話ですが、フェアは一週間に一度ぐらいの更新でやっていましたねぇ。新聞・雑誌・テレビをネタに話題になったテーマでフェアを行うわけです。記憶に残っているのは「公害を斬る!」でした。60年代の話です。そのコーナーを新聞が取り上げ特集記事になりました。個性的というよりヘンなスタッフが多かったw。店でやとっていた私服の万引き防止のガードマンが雑誌売場で女の人に声をかけられ、袖をひかれた。精神を病んで病院がよいをしているお客さんは「おーい中村君」と歌いながら登場する。でも、棚だしを手伝ってくれることもあった。お客さんとスタッフとの敷居が低すぎて時々越境する。紹介できないエピソードがありすぎましたよ。楽しい本屋でした。もうこの時代では許されないでしょう。新刊点数も現在の半数以下で、返品作業もいまよりう〜んと少なかった。もしも今、委託・再販維持制度が撤廃されれば、かっての関内店のようなそれ以上の「ユニーク」な本屋が立ち上がる可能性が高くなるとは思う。リアル書店の再生は「委託・再販維持制度の撤廃」が肝心です。でも、このことが著者を始め出版流通業界のマジョリティにわかっているのか、わかっているのにわからない風をしているのか、わからないが、いまだにシステムの変更が出来ないですね。
風呂掃除をしたけれど、垢、黴で汚れていました。
感染しやすい身体だから綺麗に掃除をしなければならないのに、掃除だけで疲れてしまった。いい湯だなぁ♪

風呂掃除を終えて、駅前のモール街で夕食の食材を買う。しかし、青もの野菜の高さに驚きます。トマトも高いですね。本屋へ寄るととみきちさんが構成した淵邊善彦著『企業買収の裏側』を見つけて衝動買いする。