子どもを生み育てる

佐々木中の『足ふみ留めて』から引用。
3・11以降のこの国のデザインがこんな風にシフトすればいいなぁと思っています。

佐々木 『夜戦と永遠』では、ルジャンドルが言っている「系譜原理」について書きました。「系譜原理」とは、子どもを生み育てることの制度的な保障を行う原理です。ルジャンドルは子どもを生み育てることを保障できない国家の形式は存在を許されない、とはっきり言っている。ごく簡略に言えば、これは二重の再分配の原理です。つまり再生産=繁殖のための物理的資本の再分配と象徴的資本の再分配です。貨幣も「信用」に基づくものなのですから、この二つは切り離すことができません。ベーシック・インカムで全住民が月額八万円を与えられるという計算がありますが、それなら三人家族であれば二十四万円になります。これは、実は「君たちは生きていていいのだ」という言語的なメッセージを与えることにもなるわけですね。人民に対してこのようなメッセージを与えられない制度的形式は、国家に限らずやはり解消されなくてはならない。
ご存じの通り、「高等教育の漸進的無償化」を批准していない国は、日本とマダガスカルルワンダの三ヶ国だけです。象徴的資本の再分配をする気がない、つまり系譜原理を機能させる気がないわけですね。また、女性の働きやすさの指数も国連の機関から発表されていますが、日本は先進国で最低です。女性が大学を出て専門職に就いていたとしても、子どもを生み育てるために一時でも辞めると元の給料は保障されず、再就職しても生涯年収は激減する。言い方は悪いですが「パートのおばさん」になってしまう。大した「先進国」ですね。ドイツで、たとえば働く女性に育児休暇五年の後にも同額の収入を保証することにしたら、それでも他のEU諸国に批判されたと聞きました。休んでいる五年間分の昇給も保証しろ、とね。こうしたことと「少子化問題」が別のことだと考えられているわけです。立場の左右を問わず、子どもを産み育てることができない国家の存立は危ういというのは当然のことだと思うのですが。(30)