久坂部羊/無痛

小出裕章氏提言「地下ダム」政府が準備中。だが東電抵抗。株主総会乗り切るため。 | 小出裕章 (京大助教) 非公式まとめ

応答要領の中でも愚答の極みは「なぜ早く着工せぬ」という質問に対するもので、ぬけぬけとこう書いている。
 「地下水の流速は1日5センチメートルから10センチメートルなので、沿岸に達するまで1年以上の時間的猶予があると考えている」
 記者発表は14日のはずだったが、東電の株主総会(28日)の後へ先送りされた。
 福島原発の崩壊は続き、放射性物質による周辺の環境汚染が不気味に広がっている。株価の維持と汚染防止のどちらが大切か。その判断もつかない日本政財界の現状である。
 政府当局者の一人がこう言った。「あの(太平洋)戦争でなぜ、指導部が的確、着実に作戦を遂行できなかったか。いまは分かる気がします」
 誰も信じない、東電の「収束に向けた工程表」という大本営発表が続いている。
ー風知草:株価より汚染防止だ=山田孝男よりー

無痛 (幻冬舎文庫)

無痛 (幻冬舎文庫)

無痛文明論

無痛文明論

久坂部羊の『無痛』を病院の図書室より借りて読みました。読み始めは登場人物の粗っぽい描写にリアリティを感ぜず中座したのですが、次々と仕込んでいる医学医療の最先端からトンデモ的科学的知見、心神喪失者の行為は罰しない、心神耗弱者の行為は軽減する刑法39条の問題とてんこ盛りで、医療情報小説としても面白いところがあった。
主人公の医師為頼は犯罪人類学の創始者ロンブローゾの系譜を引き継ぎところがあって、人の表情、身体に「犯因性」、「病気」の症候を観測する。病気は自然現象であって、ほとんどの病気は「治るべきして治る」、「治らない病気は治らない」、医者の出来ることはほんのわずかで、まあ、同じように患者の病気が見えるもう一人の医師白神は、まるで落語の『死神』の先生みたいなところがあるが(笑)。愛嬌がなくトマス・ハリス著『羊たちの沈黙』のハンニバル・レクター博士の方に似ているかなぁ。謎解きになってしまうので詳しく言及しないけれど「先天性無痛症」の男とセットで恐るべきモンスターが物語を駆動してゆく。
この二人が登場するあたりから、俄然、面白くなって本を手放せなくなりました。それからは一気読みになってしまった。
http://www.gsic.jp/support/sp_02/kvs/32/index.html
そもそも、作者の久坂部羊を知ったのはフリーペーパー『月刊島民』に連載している「中之島ふらふら青春記」のエッセイ「研修医生活外科医編」でこんな一文を読んだからだ。(2011年6月1日号)

研修医だったころの私は、大学病院の先輩医師たちを尊敬するより、反発する気持ちのほうが強かった。彼らはいずれも優秀な医師だったが、どれほど患者のことを真剣に考えているのか疑問に思えたからだ。
 ある指導医は、大学病院は治る患者を優先すると言って、転移のあるがん患者をほかの病院に転院させながら、身内の医師の妻は転移があるのに入院させた。ある医師は、総胆管がんの父親を死ぬまで入院させ、亡くなったあと解剖をしなかった(一般の患者はほぼ全員解剖するのに)。また、腹腔鏡の検査データを集めていたある指導医は、いろいろ理由をつけて、必要のない患者にも腹腔鏡の検査をやっていた。
 教授の紹介だからといって手術の順番を飛ばしたり、患者が手術当日に発熱して手術が延期になると、手術件数を減らしたくないという理由で、急遽、別の患者の手術を繰り上げてしたりもしていた。(p14)

 でも、ロンブローゾとなると眉唾ものですが、遺伝子情報を収集解析して病気を予測する最先端技術の特集をNHKクローズアップ現代でやっていたが、1時間40分くらい、費用は50万円(多分)で遺伝子の解析をやってくれるらしい。
 日進月歩でもっと高速、安価になるらしい。だけど環境因子が50%だと言っても遺伝子情報で50%の確率であなたにはこんな病気のリスクが遺伝子情報として書き込まれていますよと、情報開示されても困ってしまう。
 『無痛』に登場の先生方のアナログ的診断能力は「占い師」に似て突込みができるけれど「遺伝子治療」となると平身低頭になってしまうねぇ。
 ところで落語の死神は患者の枕元に鎮座していれば、その患者は寿命が尽きる。足元に鎮座していれば延命する。その死神が見える先生は「治る患者」の背中を押すだけ。
 ♪円生/死神 - 葉っぱのBlog「終わりある日常」
 そう言えば森岡正博の『無痛文明論』は8年前の発刊だったんだ。事件的盛り上がりがありましたねぇ。僕も渦の中にちょっとだけ巻き込まれたけれど、久坂部羊の「無痛」は森岡さんの「無痛」に示唆されたのであろうか?