国境なき検索エンジン

 文藝春秋6月号の森健の記事『?怪物?グーグルが世界を支配する』を読みました。色々と勉強になりましたが、グーグルは光だけでなく、影もあるのは当然で、そのあたりは、「メディア・リテラシー」を上手に働かせなければとんでもない目にあわされるとのクールさを執拗に保持する必要はありますね。

「『天安門』と『法輪功』の二つのキーワードで検果してみましたが、どちらも『ページを表示できません』とエラーページでした。正確には天安門のほうは一瞬検索結果画面になったあとにエラーページ。法輪功のほうは一瞬も検索結果は出ず、その後は何度やってもすぐにエラー画面です。日本ではどうですか?」 中国・北京に駐在する雑誌編集者にグーグルの検索状況を確認するとそんなメールが返ってきた。
 今年一月グーグルでは中国での正式なサービスを開始した。中国名称は「谷歌」。四月には同社の会長兼CEOエリック・シュミット氏も米国から駆けつけて盛大なレセプションを行った。
 だが、中国グーグルは政府に批判的な香港や台湾、北朝鮮のニュースのほか、天安門法輪功など政府が触れてほしくない情報に関しては特別にキーワードが設定され、検索できない仕組みだ。日本や米国などからアクセスするには問題ないが、中国国内からアクセスした場合にかぎり情報が遮断される。こうした事態に対し、「国境なき記者団」の報道担当官は英BBCの取材に対し、中国政府に妥協したグーグルの決断は恥ずべきものだと非難を浴びせている。というのも、今回の中国での対応は同社が掲げる「世界中の情報を体系化し、有益に提供する」という使命にそぐわないものだからだ。
 実際には中国での検閲協力にはグーグルのみならず、ヤフーやMSNも同調しており、グーグルだけを責められるものではないだろう。
 だが、これまで検索技術の精度とその公平性を唯一の武器として信頼を勝ち得てきた同社にしてみれば、検閲に屈することは大きな失点であったことは疑いない。その動向は米政府や米議会も重く見ており、国務省や米下院外交委員会で政治的な議題としても進行している。
 そもそも、現代で最大の情報網であるウェブというインフラがわずか三社の検索エンジンによって占められていることを考えれば、政治的な議題となるのは必然だろう。どこかの検索エンジンが情報を遮断したり削除したりすれば、そこで出てくる情報はきわめて歪められたものになるからだ。
 たとえていえば、全世界で三紙しか新聞がないようなものだ。しかもそのすべてが米国製なのである。
 こうした事態を懸念し、国独自の検索エンジンをつくろうという動きは、欧州はじめ各国にある。実は日本でも「国産検索エンジン」のプロジェクトが経済産業省を中心にすすめられている。 「人は触れる情報によって育つ、ということを考えると、日本文化のためにも、国産検索エンジンがあったほうがいい。開発には国家的予算が必要となりますし、もうグーグルがあるからいい、と諦めるムードもあるが、日本の高い技術を集めれば、グーグルとはまったく違う検索エンジンを構築することはできます」(情報経済企画調査官のハ尋俊英氏)

 ところで、グーグル以前の検索エンジンと、どう違っているのだろうか?グーグルが採用した計算式(アルゴリズム)は「ページランク」というものですね。従来型は単にウェブページにその検索語がいくつ含まれているかによって重要度のランキングが決定される。それに比べてグーグルのルールはどれだけ多くのリンクが張られているかという被リンク数によって表示ランキングを決定するわけなのです。そこには他者の顔の多さによって重要度が決定されるという当たり前の方法論ですね。

 検索エンジンの基本的構成は、自動化された三つのプログラムと、それらのデータを収納する巨大なサーバーによって成り立っている。
 プログラムの第一は「クローラー」と呼ばれるウェブデータの収集役だ。クローラー二十四時間三六五日、全世界のウェブサーバーに入り込み、そこにあるテキストや画像のデータを収集し、グーグルのサーバーに持ち帰る。
 次に大量に集められたウェブデータは、「インデクサ」と呼ばれる第二のプログラムによって、テキストの内容ごとにデータベースに索引化される。(中略)
 そうして索引化されたデータは、前述の表示アルゴリズム「ページランキング」という検索プログラムによって重要度が数値化され、ランキング化された検索結果として表れることになる。

 なるほど、この検索に政治が介入してはいけません、検閲と紙一重のところにグーグルの公平さはあり、常に批判の目に晒される風通しの良さを維持し続けることが、グーグルの信頼性を担保することでしょう。それは恐らくアントニオ・ネグリ&マイケルハートの「マルチチュードプロジェクト」と、どこかでリンクする生ものの更新し続ける運動体でないと、信頼性が色あせてしまう。謙虚で大胆に、そんな矛盾をものともせず、検索エンジンが駆動して欲しいものです。
参照:2006-05-13 - 風の旅人 編集便り 〜放浪のすすめ〜
   http://miyadai.com/index.php?itemid=356