宇野千代(明治から平成へ)

雨の音 (講談社文芸文庫)

雨の音 (講談社文芸文庫)

地元の図書館でもらったリサイクル本・宇野千代著『雨の音』を読み始めたらやめられなくなった。
標題の『雨の音』以外に『この白粉入れ』、『水の音』、『幸福』、『野火』、『それは木枯らしか』が収録されているのですが、宇野さんの生々しさに圧倒される。腐女子、草食系女子ではないよねぇ。
まあ、肉食系女子でも圧倒されるでしょう。
昭和63年(1988年)に東武デパートの池袋店で開催された明治、大正、昭和の代表的な『女性作家13人集』が評判を呼んだらしいが、面子は樋口一葉与謝野晶子田村俊子野上弥生子岡本かの子宮本百合子平林たい子林芙美子円地文子壺井栄有吉佐和子宇野千代佐多稲子で、宇野千代は平成に入っても現役バリバリで執筆していたんだと改めて驚愕する。

著者から読者へ/現役で仕事を続けて行くこと

 この文庫に収録されている作品は、皆、私の七十代を過ぎてからの作品である。現在私は満九十一歳である。この頃の私は、自分の書く事と言ふ仕事に対する自覚が、多少なりとも出来て来たように思はれる。この作品を書いた二十年間の中には私の身の上にもいろんな出来事があった。自分の生活に追はれながら、その時々の自分の気持を書き綴って来たような気がする。若いときは生活のためにお金のために文章を書き始めた。そして自分が今日までこの文章を書くと言ふ仕事を続けて来られたことを何とも仕合せに思ってゐる。小説「この白粉入れ」の中のニッケルの白粉入れも相変わらず未だに私の鏡台の前に置いてある。所々メッキのはげたこの白粉入れを私はどうしても手離すことが出来ないのか自分でも分からない。(後略)