非現実的な夢想家として


 今日も病院の診察に行ってまいりました。

 かって僕はこんな妄想落書きをしていました。村上さんのスピーチを読むと思い出してしまった。

 「尾ある人、井より出で来たりき。その井に光りありき。汝は誰ぞと問いたまえば、僕は国つ神、名は井氷鹿という、と答えもうしき」(古事記より)
 昭和二十年八月六日午前八時のヒロシマ上空の気温は二十六・七度。雲は相変わらずなく、風速は一・二メートル。内海特有の真夏日が始まろうとしていた。
 悪魔の子<原爆>はリトル・ボーイと命名された。この大きな赤ん坊を孕んだB二十九<エノラ・ゲイ>は、僚機<グレート・アーチスト>と倒錯的なランデブーをした。下着姿のリタヘイワースのピンナップが、赤ん坊の弾道を抱いていたという。
 高度五六五メートルで、リタヘイワースと赤ん坊は爆発した。リタは一枚の写真。赤ん坊は多くの人を抱いて死んだ。
 瞬時にヒロシマは廃墟になった。
 ヒカルは放射線治療室の前のソファにちんまりと、座って名を呼ばれるのを待っていた。
 「ひつじさん、おはよう。」
 紅い頭巾を被ったミルちゃんが瞼一杯に嬉を溢れさして、微笑んでいた。七つ児のちっちゃな手の温もりがヒカルのくたぶれた白い毛を引っ張った。
 「ミルちゃん、今日で叔父さんとお別れだ。放射線を浴びるのは終わりなんだ。ママは」
 「ママはお仕事、ミルはひとりでこれるもの、ひつじさん、いなくなるの、どこいくの」
 ヒカルは何にも答える事が出来ず、四つん這いになって、ミルちゃんを背中にのっけて廊下を歩き廻った。あんまりはしゃぎ過ぎて、紅い頭巾が宙に舞い、ミルちゃんの可愛いスキンヘッドが生々しい素顔を覗かせた。帰りに病室まで送ってあげると約束して医者より名を呼ばれるまで、久しぶりに四つ足になってあそんだ。

小国寡民のエネルギー政策 - 内田樹の研究室
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