種村季弘/追悼:只今退散仕る

◆前のパソコンは壊れました。入院して見積もったら、新品を購入する方が安上がり。人間と違ってマシーンはクールです。ぼくもクールに対応して、前のは処分で、新しく立ち上げました。その最初に物故したばかりの種村季弘をカキコするのも、<極私的>に多少の因縁を感じます。三島由紀夫自裁したのが、1970年で、三島と縁の深い薔薇十字社の主催だったので、その数年後だと思うが、80年代のフラットな時代ではなかったと思う。赤坂のクラブで忘年会がありました。何故か、一介の書店員に過ぎなかったぼくは、同僚のK君と招待された。渋澤龍彦、加藤郁乎、寺山修司唐十郎竹中労、そして、種村季弘さん達が壮年の熱気を充満させて、飲んで歌って喋った宴だったのです。主に竹中さんと、種村さんが座を仕切り、ぼくとK君は澁澤さんと加藤さんの前に陣取り、K君が小学生時代に澁澤さんにファンレター書いた話をし、そのことを澁澤さんが憶えており、小学生の分際で、悪魔文学に興味を持つとは末恐ろしいと、そんな話のフリでしたが、隣のテーブルで唐さんと、寺山さんが、ジャンバー姿で、仲良くヒソヒソ話をしていたのが、記憶に残っています。確か、種村さんか、竹中さんが、澁澤さんに森進一の歌をリクエストしました。澁澤さんの、細身で美少年ぶりは、森進一以上に森進一的で、みんなの拍手喝采を受けました。その澁澤さんも喉頭癌で物故。寺山さんも竹中さんもいなくなってしまった。そして、種村さん…。寂しくなりました。でも、種村さんのことだから、あちらでも、ノンシャラと徘徊しているのではないかと、思う。迷宮好み、怪談好きの種村さんは、マゾッホパラケルススカリオストロ、などのおかしな連中や、澁澤龍彦さん達と飲んで歌ってどんちゃん騒ぎをやらかせているような気がする。そして、悪ふざけの趣向を考えて、どうやって幽霊になり果せ、こちらの連中をびっくり仰天させて、腰を抜かせてやるかと思案しているのではないか?
◆「種村季弘只今参上」と大音声で、天から声が落ちて来そうで怖いなと、思ったら、本当に震度4の地震が起きてしまった。まさか、種村さんの仕業ではないと思うが、みなさん、気をつけてください。今朝も地震がありました。今度はこんな風に聞えました。「種村季弘只今退散仕る」って…、え〜と、このネタは稲垣足穂の『山ン本五郎左衛門只今退散仕る』からです。種村季弘編『日本怪談集 上、下』(河出文庫)に収載されています。よりすぐりの怖い話が一杯、あります。
◆そうそう、種村さんの翻訳ですが、クライストの『チリの地震』(河出文庫)をさっき読みました。美しいものと禍々しいものが同時に視界に飛び込み、上下左右の空間にとりこまれて、眩暈のする名作です。