感じる男前ーもうろくの春ー

イケメンでなく、男前のスレを立てたら、さっそく反応があったので、もし、本年度の男前を選ぶとしたら、誰だろうかと、くだらないことをちょいと考えてみました。このブログの流れでは文句なく鶴見俊輔さんなのですが、保坂和志BBSを覗くと青山光二についてカキコをしていました。そうか、、九十歳を超えてまだまだ、現役の青山光二がいました。

『吾妹子哀し』(新潮社)は素晴しいラブ・ストーリーです。八十歳を過ぎて尚、現役なのです。アルツハイマー型痴呆症との老妻杏子との濡場は『感じる男』の面目躍如です。この健康な性愛こそ、もっとも過激なものである。鶴見さんも『もうろくの春』詩集を発刊しているし、悩むところですが、鶴見さんには狸前になってもらって、男前はやっぱ、青山光二にします。
『われらが風狂の師 上・下』(新潮社)などは読んでいるのですが、保坂さん紹介の『極道者』(ちくま文庫)など任侠小説は未読です。保坂和志さんはBBSでここに登場する極道達の所作のシンプルさに惚れ惚れするとコメントしています。『われらが風狂の師』は旧制三高(現京大)時代に作家(織田作之助は同級生)の恩師でもあった“ドイトラ”の愛称で親しまれた京都学派の土井虎賀寿の躁鬱症を内に抱えて、超人的活躍と奇矯な言動で波乱万丈の一生を送った自伝小説なのです。“ドイトラ”は三高教授、京大講師の職を捨てて東大仏文科大学院に45歳の時に入学するのですが、その躁のエネルギーが噴出すると、誰もとめられない。彼が独文で書いた『華厳経入門』を賞賛したハイデガーからの手紙を古本屋に売り飛ばしたり、弟子知友から借金しまくり放浪を続ける。まあ、こんな帯文がついていますが、この小説には西田幾太郎・田辺元小林秀雄太宰治武者小路実篤武田泰淳野間宏・粟津則雄など、多彩な人物が登場します。上下巻の長編小説ですが、読み出したらやめられません。自信を持ってオススメ出来ます。
◆それから、新刊で坪内祐三『文庫本福袋』文藝春秋)を上梓していますが、その一頁目に青山光二の『金銭と掟』(双葉文庫)をタイトルに『砂時計が語る』(双葉社)を紹介しています。

青山氏は戦後日本文学史の貴重な生き証人だ。なにしろこの巻頭に収められている一文に、<二度ばかり、いっしょに死のうと誘われた。深夜、銀座から二人で乗ったタクシーの後部座席だった。むろん酔っていた。/「ねえ、死のうよ」/と、しっこくからむので、運転手が気味わるがって、何度も振り向いて見た。/「男同士の心中はみっともないですよ」一人で死ねばいいじゃないかとも云えず、私はつぶやいて応えた。「……見られたもんじゃない」>/という一節が登場し、「太宰治と迷走神経」と題されているように、ここで青山氏に心中を迫った人間は、あの太宰治だったりするのだから[……]

太宰治に心中を迫られるひとならば、男前大賞に相応しいですね(笑い)。『感じる男・青山光二』に拍手喝采したいです。