ヴィム・ヴェンダース

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◆映画を観るとき、われわれは自分がそこに観たいと思うものしか観ない。ゴーダールはそのことを別段、否定的に捉えているわけではない。むしろ、それは能力として肯定的に考えている。だが、今の演出家たちは、もはや、こうした能力を持っておらず、理解してさえもいないと憤慨する。さらに言えば、自分がつくっている映画を観ていないということである。映画とその演出家の間にはなんの関係もなくなっている。ゴダールは不穏なことを言っている。分りにくい、ちょいと引用。(旧ブログから転載)

私が言いたいのは、『都会のアリス』のような[シナリオがそれほどくわしく書かれていない]映画の場合でさえ、監督は、ひとつのカットを撮りあげると、次にどういうカットを撮るべきかを知るために、その撮りあげたカットを見るということをしないということです。次にどういうカットを撮るべきかはすでにわかっているのです。マック・セネット(自注:サイレント映画の場合)にはそれはわかっていませんでした。映画の草創期だったわけで、それがノーマルな状態だったのです。チャップリンにもわかっていませんでした。私の場合も、事情は違うにしても、いくらか似たところがあります。かりに私がある撮影風景をルポするとすればーーそれは私の映画批評にもなるでしょうがーー、《このカットはうまくいった》とか《うまくいかなかった》といったことに関心を向けるのではなく、そこにいる連中が、自分たちの考え方にしたがって、どのようにしてそのカットを、うまくいったとかうまくいかなかったとかおもしろいとかとみなすようになるのかということに関心を向けるでしょう。あるいはまた、かりに私が今、〈カイエ〉なり〈ニューヨーク・タイムズ〉の映画のページなりの編集長であれば、《さて、ヴィム・ヴェンダースの次回作がどのようなものになるかをじっくりと見てみよう……》といった記事をつくるでしょう。そして私が思うに、その映画の撮影はそういったやり方で[自分たちがつくっているものを見ないまま?]なされるのです。それに、それをあとで誠実なやり方で分析してみれば、[映画づくりにおいては]解読(レクチュール)というものがより大きな役割を果たしていることがわかるはずです。いや、私は映画をつくっている連中がラッシュ[撮影後すぐに現像されたフィルム]を見ていないと言おうとしているわけじゃありません。私が言いたいのは、連中はもはや、ラッシュを見ることの大きな必要性というものを感じていないということです。あるいはまた、翌日どういうカットを撮るべきかを知るためにラッシュを見ることの必要性というものを少しも感じていないということです……(略)ー『映画史 ?』188,9頁よりー

本書はパラグラフがなが〜く、引用を始めると、せめて段落だけでもと思うのですが、僕の方が息切れしてしまう。え〜と、このあとは、梗概で、…
◆要は言葉と映像の問題なんです。言葉は牢獄で、映像は必然的に自由に属するもので、映像がなにかを禁止したり、なにかを許可したりすることはない。なぜなら、映像はひとつの全体であり、言葉とは別のものだからです。例えば、《好ましからざる人物》という指定は言葉では可能であるが、映像をつかって表現することは出来ないのです。ゴダールの映画観は風通しが良い。
◆自由に気ままに鑑賞して、又、その上見たいものしか見ないとしても、そこに自分の思い入れが参入していれば、鑑賞者と映画と幸福な関係を取り結んでいる。そして、そこに演出家も当然、自分の映画に対して思い入れ参入があるはずで、そうであれば、鑑賞者/映画/演出家が全体として映画が表現される。その空間から、映画の経済システムで演出家がそっぽを向いているとしたら、こんなおかしな事はない。映画界の実態はどうなんだろう。
◆哲学で人々は映画を観ない、ゴダールさんに後ろ指さされる哲学なき映画でも、結果として大ヒットなら、太った豚として弾劾しても仕方がない。結構、人々は総論では自由を肯定するが、拘束されないで映画を観るシンドサに耐えられないのです。痩せたソクラテスになるには、決然とした覚悟が必要ですからね。与えられた物語、心地よい甘い牢獄でダラシナク映画を観たいのです。「自由であることは緊張を強いられます」。
◆[自分が見たいと思うものを見る能力]はある種の自己鍛錬が要求されますもんね。映画に求めているものは、今や、『自由からの逃走』(E・H・フロム)の束の間の逃げ場所でしょう。そんな状況に対して、何十年と異議申し立てするそんなゴダールが好きなのですが、『都会のアリス』はいいではないですか?それはそうと、ゴダールは“太ったソクラテス”なのでしょうか、宮台真司さんに訊きたいものです。
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