本屋風景

 ポプラビーチに連載されていた田口久美子の『書店日記』の最終回は「若い書店員たちへ」ですが、前日紹介した『書店風雲録』の続編のようなもので、いつか活字で読む機会になるとは思いますが、「本が好きで好きで堪らなく」、「そんで第一志望で本屋さんに就職したの」っと言う若い人たちが結構多いということに改めて感じ入りました。総合書店ではアルバイトの比率が高いが非社員でも、確信犯的に「本が好き」と言う若い人が僕の知り合いでも結構いる。時給は驚くほど、安い。  出版不況と言っても大手の出版社の社員は書店の正社員の4〜5倍ぐらいもらっているでしょう。その社員よりは当然、不安定な待遇です。僕が物心つく大昔から本屋さんは安い給料で丁稚奉公が珍しくなかったのに、1970年頃から大学卒が書店員として働き出した。大学生になった頃に適当のアルバイトとして働き始めて本の魅力にハマッタのか、もとよりそんな傾向があったためか、そのまま、そこの店で正社員として働いたり別の本屋さんに就職する。それにこの頃から有名書店がナショナルチェーン展開を図り、バブル到来でサービス業の時代となり、むしろ新卒たちは第一志望として出版社でもなく、取次でもなく、本屋さんを選択するのが珍しくなくなった。
 そんな状況でも給料はあんまり高くならない、むしろ人件費を抑えるために超大型書店では100坪当たり社員が一人であとはアルバイトが珍しくない、先日もある有名書店で本を問い合わせたのですが、最初に声をかけたのが、よく教材などを店内でデモンストレーションしているでしょう。(あまりハデにやっていなかったので、ここの書店員だと思ったのです)、「ゴメンなさい、ここの人ではないのです」、それから事務所のようなところから背広を着た二人組みに遭遇したのですが、どうやら版元の人たちでした。最初からレジにところに行けばいいのですが、棚周辺で作業している書店員に何とか声をかけようとしたのです。大体担当者でないと話が通じない場合が多いから見当をつけて知っていそうな書店員を探すのですが、これが結構大変です。
 もし、リアル書店がネット書店に対抗する利点の一つにリアルな接客があると思います、でも、これはコスト的にも時間的にも難しいでしょうね。僕が現役の頃は、版元、取次の人はともかく、お客様とよくお茶したものです。お客さんが女の子の場合はこちらがおごりますが、その他はお客さんに御馳走になったものです。ルーズで呑気なものです。一日に何杯も珈琲を喫するもんだから、胃が荒れました。何の話をするかと言えば勿論「本の話」です。お客さんも話したくてたまらず、又聞いてもらいたいのです。
 だから、僕の本屋さん体験は十年ですが、苦行で働いたという感覚でなく、遊ばせてもらいましたという無為な日々でした。本が好きで堪らなくて、本屋さんをやりたいと思う若い人が事業として大きな組織の中で田口さんのように大きな仕事をやろうとするのも一つの選択肢だし、そんな大きなことをやろうとは思わない、十坪以下の遊び心で経営したいと無為な野心を持つのも一つの選択肢ですが、僕の予測ではアマゾンのようなネット書店に対抗できるのは後者の接客を大事にした「ブックカフェ」のようなものではないか、まあ、棲み分けですが、そんなところだと思います。中途半端な大型総合書店よりはネットを覗いてしまいます。ジュンク堂池袋店のような超大型書店は身近にありませんからね…。
 ◆画像の本:ゴーガン著『ノア・ノア』、楳図かずお著『愛の奇跡』、小島信夫著『抱擁家族』、トルストイ著『戦争と平和4』、アファナーシェフ著『ロシア民話集上』、小島信夫×保坂和志著『小説修業』、牧野洋子著『ラフカディオ・ハーン』、現代日本の名作44(旺文社)『小島信夫 井上光晴』、筑摩世界文学大系57『ジョイス・ウルフ・エリオット』、これらも殆どブックオフ購入か図書館でリサイクルで頂戴したものです。でも自己弁明するなら、一度リアルタイムで購入して引越しなので、処分したのが、回りまわって又僕の手元にやってきた感じですね。複製たる本の情報は劣化しない、その凄さを再認識しますね。保苅実の『ラディカル・オーラル・ヒストリー』はちゃんと新刊購入しました。(図書館で借りて読んだのに、どうしても手元に欲しくなったのです。)筑摩の世界文学全集57巻は保坂和志さんのHPでロートの『ラデツキー行進曲』が引用されていたもんだから、とても読みたくなったら、何とグッドタイミングでブックオフの百五円棚にあったのです。柏原兵三訳です。面白かったですよ、
 参照:ウルフの『灯台へ』は保坂和志さんの『小説をめぐって』でネット公開された一文がありますね、
http://www.k-hosaka.com/nonbook/megutte17-1.html