現代の貧困

論座 2007年 01月号 [雑誌]丸山眞男―リベラリストの肖像 (岩波新書)不平等社会日本―さよなら総中流 (中公新書)
 昨日読んだのですが、深夜のシマネコ赤木智弘さんが『論座・1月号』の特集「現代の貧困」で非常に明晰な一文『「丸山真男」をひっぱたきたいー31歳フリーター。希望は戦争。』を書いています。とても誤読を生みやすい、何せ、赤木さんは双風舎の『バックラッシュ!』に対して異論、反論して『弱者男性の問題』を提起したわけですが、僕自身素直に言えば、ちゃんと理解しきれていないところがある。
 それは、そもそも、前提になる「情」として赤木さんを突き動かす名状しがたい諸々にシンクロ出来ないところがあるのでしょう。言葉で同調するのは簡単ですが、賢明な赤木さんは、そんな「お為ごかし」は見抜くでしょう。僕や、団塊の世代は原則、世代論的には敵なのであって、既得権益を手放して赤木さんたちの世代に職も権益を譲る覚悟と実践を行ってから「ものを言え!」って言うことなのでしょう。
 先日、こちらで、藤原新也著『黄泉の犬』を巡って、赤木さんとやりとりしたのですが、僕も藤原さんもそのような世代のオヤジとして弾劾されたわけです。時代の不幸が原因だという短絡的な断裁はわかりやすさという点において確かに有効です。僕はその位相とは違う、「存在の不安」そのものについて赤木さんとやりとりしたかったのですが、そんな実存的な問いは過剰な「豊かさ」からくるものであって、僕らには無縁だとせせら笑われたわけです。
 『現代の貧困』はそのような問い、又は「ワークシェアリング」、「ベーシックインカム」のようなできもしない提言より、既得権益に拘泥する『強固な幸福階層制度』(平和な社会)を揺さぶるしかないと彼は言っているわけです。希望は戦争と言ってしまう。

 戦争は悲惨だ。
 しかし、その悲惨さは「持つ者が何かを失う」から悲惨なのであって、「何も持っていない」私からすれば、戦争は悲惨でも何でもなく、むしろチャンスとなる。
 もちろん、戦争において前線や銃後を問わず、死と隣り合わせではあるものの、それは国民のほぼすべてが同様である。国民全体に降り注ぐ生と死のギャンブルである戦争状態と、一部の弱者だけが屈辱を味わう平和。そのどちらが弱者にとって望ましいかなど、考えるまでもない。(p59) 

 ここだけ切り抜くと偏読、誤読されるでしょうね、
 彼は格差問題を多くのサヨクが理解しているような、富裕層と労働者層間の貧困、すなわち、労組などに属する労働者が包括的に弱者側に属する、古くからの左翼的イメージの問題ではなく、
A「富裕層」とB「安定した労働者層」とC「不安定な貧困層」の3つに別れる経済問題
として捉えているのです。彼が攻撃の的にしているのはAの「富裕層」ではなくBの「安定した労働者層」なのです。左翼論壇はA「富裕層」に対してBとCの連帯を主張するわけですが、そんなのは有効でもなく、欺瞞だと言うわけです。そうでなくて、「安定した労働者層」×「不安定な貧困層」の問題だと叫んでいるわけです。

 しかし、それでも、と思う。
 それでもやはり見ず知らずの他人であっても、我々を見下す連中であっても、彼らが戦争に苦しむさまを見たくはない。だからこうして訴えている。私を戦争に向かわせないでほしいと。
 しかし、それでも社会が平和の名の下に、私に対して弱者であることを強制しつづけ、私のささやかな幸せへの願望を嘲笑いつづけるのだとしたら、そのとき私は、「国民全員が苦しみつづける平等」を望み、それを選択することに躊躇しないだろう。

 叫びの結語です。理屈ではなく赤木さんのこの叫びにシンクロするかどうか、
 昨夜、ビデオニュースドットコムで、『山岸尚之の京都議定書』について環境問題のレクチャーを視聴しましたが、後半で、神保哲生宮台真司がそのような「情」について語っていましたね。結局、人を説得し、動かすのは「情」でしょう。その前に「貧困問題」を徹底的に考えるだけではなく、実践する必要があるのでしょうね、教育問題、安全・安心、平和について、あらゆる問題の基底に「貧困問題」がある。そこに手を突っ込むと平和に安定した生活を享受している人の暮らしを揺さぶる危険があるから、AもBもC「不安定な貧困層」が見えない存在、巧妙な排除で、やり過ごしているのでしょうか。
こちらで、論座の記事が一本、読めます。http://opendoors.asahi.com/ronza/story/index.shtml
 確かに僕は数年後に65歳以上の高齢者になるわけです。そうすれば「高齢者」ということで、社会的に保護すべき「見える存在」になるわけです。まあ、シルバー料金で、映画のサービスはありますけれど、昨日、風邪が流行しているので、インフルエンザの予防接種をしようと行政に電話したら千円で出来る予防接種は65歳以上からです。通常なら三千円以上です。通院している大学病院で確かめました。でも地元の病院では子供に予防接種してもらったら、六千円以上支払ったと言う。だいぶ違いますね、どうして?
 そうそう、赤木さんの生顔写真が掲載されていますよ。
 今号の出版社紹介は「月曜社」で、ウラゲツさんの顔写真もアップされていますね。こちらも、どうぞ、 
参照:★深夜のシマネコBlog: 論座のプロフィールを読んで来た方へ
 ★黄泉の犬つづく - 葉っぱのBlog「終わりある日常」
 ★現代の貧困をめぐって。 - シャ ノワール カフェ別館
 ★生田武志「口実としての」自己責任論