30代フリーターで年収100万円。夢は?

 ◆前回のエントリーからの続きのようなものです。コメント欄で、pataさんが吉本隆明の過去の著作を読んでいて、僕も講演CDを聴きながら、あるズレを感じたのは、あの時代の吉本さんは「貧困」が視界になかったということでしょう。消費資本主義社会まで行き着いて、経済的には最早ほとんどやることがなくなった。確かにそうだったかもしれない。だけど21世紀になって、見えなかった「貧困」が突如として浮上したということでしょう。僕はミクシイの方でもコメントしたが、出来うるなら、赤木さんの『若者を見殺しにする国』の吉本さんのコメントを聞きたいものです。『論座』にも書いていましたが、この本の感想を聞きたいですね。
 ◆佐藤優は、確固たる「世界観」、「大きな物語」を持たないと政治は出来ないと吠えているのでしょう。そこが佐藤優の真骨頂だと思いますが、かような佐藤優を登場させたり、小沢一郎雨宮処凛と、論壇雑誌『世界』も面白くなりましたね。『論座』といい、今年になってから急に風が変わったのかなぁ、そう言えば、今年の1月号『論座』に赤木智弘の論考が掲載されたわけだ。
 山口二郎×佐藤優対談「なぜ安倍政権はメルトダウンしたか」より、『失われゆく「国土」「国民」』の佐藤さんのしゃべくりを引用します。

佐藤 9月5日、村上正邦さん(元労働大臣)が主宰する「一滴の会」の勉強会で、沖縄の集団自決に関する教科書検定に対して、いま沖縄が保守を含めて大変な状態になっていると私が話したら、村上さんは、「どうして歴史の真実をねじ曲げようとするのか。一般の住民が手榴弾を持つはずがないじゃないか。なぜ手榴弾を持つんだ。何かあった時には自決しろという意味だろう。手榴弾を渡したという事例さえあれば、その瞬間軍の強制性が証明される。なぜつまらない議論をするんだ」と言う。
 そして、この会にいつも出席していた右翼の理論家は、「それは大変なことだ。沖縄県沖縄県以外のところでも世論がこれほど違う、温度差が出ているというのは、国民統合という意識において沖縄が外部になっているのではないか。それは拉致問題が選挙においても世論においても重要な問題になっていないのと同根だ」と言うのです。日本人が一人ひとりバラバラにされてしまって、自分のことしか考えない。つまりアトム(原子)的に分断されてしまったので、同胞についての想像力がものすごく狭い範囲しか及ばない。だから拉致問題は右側の、沖縄問題は左側の専権事項といったステレオタイプがあるのですが、その両方に対して一般に国民が関心を持たなくなっているのは、実は新自由主義を推し進めた必然の結果なのです。
 新自由主義と親和的なアトム的世界観が浸透することで日本の国民統合が内側から壊れかけている。ナショナリズムの観点から見ても、小泉、安倍両政権が進めた新自由主義的改革の結果、日本国家は明らかに弱くなっている。
 また、『週刊金曜日』に出ていた雨宮処凛さんと佐高信さんの対談が非常に面白いのですが、「『丸山眞男』をひっぱたきたい」という寄稿をめぐる議論で、佐高さんが殴る相手が違うのではないかと発言すると、雨宮さんは、〈たとえば30代フリーターで年収100万円。夢は? と聞くと、「年収300万円になって結婚し家庭を持ちたい」と言う。そんなことが夢になってしまうのが今の現実なんです。そんなささやかな夢さえ保障できない国がおかしい。浮遊、不安定だけでなくて今の状況は貧困であって、生存ギリギリの状態なんです〉(雨宮処凛佐高信戦後民主主義に希望はないのか」『週刊金曜日』2007年8月10・17日合併号)と現状を解説する。恐るべき事態です。まさに1845年にエンゲルスが刊行した『イギリスにおける労働者階級の状態』に描かれた、プロレタリアートはその最底辺において家族の再生産すらできなくなるという状況が復元されているわけです。162年前にエンゲルスが書いたようなことが、いまの東京で起きている。
 社会階級、階層という縦の構造の観点からも国家は弱っている。横の広がりにおいても、拉致問題、沖縄、それから北方領土竹島問題は風化し、この国はこの6年の中でものすごく弱くなった、というのが客観的な事実です。

 個人的には、6年前に東京を引き上げ関西の郊外に逼塞したわけですが、それから僕のネット生活が始り、何とか5年以上の延命を勝ち取り、一応数字上は療養の成果が出たわけで、僕自身は何とか持ち堪えたわけですよ。本当にこの国は佐藤さんが言うように弱くなったのでしょうか、どうやら良くも悪くも曲がり角に来たのは間違いない。どんな目が出るのでしょうか、ただ言えることは佐藤さんが言うような、確固たる「世界観」、「大きな物語」を僕はいまだに手にしていない。でも、言葉にならない、見えないカタチでひょっとしたら裡に蔵しているかもしれないね。何かことが起きたとき、ひょこっと、飛び出してくるかもしれない。