狐と紅いライオン

ロスジェネ 創刊号

ロスジェネ 創刊号

 久しぶりに内田樹のブログを読んで、内田さんらしい、「ロスジェネ」、「赤木智弘」アクセスに狐につままれる「ぼんやりさ」はあるものの、ナットク出来るところがあります。でもねぇ、当事者の「ロスジェネ世代」、「赤木智弘」さん達は多分、内田節に腹立たしさを感じると思う。

 現在の格差社会論は「私が格差上の不利益をこうむっているのは、本来私に帰属すべき資源が他者によって簒奪されているからである」という言明から出発する。私にはこれが最初の「ボタンの掛け違え」のように思われる。この前提から出発すると、どれほど強弁を駆使しようと、論理的に導かれる結論は「無差別的能力主義」以外にない。それは能力のないものの口からパンを取り上げることを「フェアネス」と呼ぶことである。最強の個体がすべての資源を占有することに同意することである。
 赤木は「戦争」状態においてなら、他人の口からパンをもぎ取るチャンスが自分に訪れるかもしれないと考えているが、社会が危機的状況に立ち至ったときに、相互支援する組織に属さない孤立した労働者に社会的上昇のチャンスはほとんどない。「不幸な人々」はたしかに増えるだろうが、それは彼が現在以上に幸福になるという意味ではない。社会的混乱の中でなら、現在彼より社会的に上位にいる市民を理由もなく「ひっぱたく」好機に遭遇するかもしれないが、その権利は赤木自身を理由もなく「ひっぱたく」権利を捨て値で売ってしか手に入れることができない。
 たしかに「今よりもっと弱肉強食の社会になれば弱者にもチャンスがある」というのは一面の真理を含んでいる。けれども、その一面の真理にすがりつく人は「弱肉強食の社会で弱者が負うリスク」を過小評価している。強者とは「リスクをヘッジできる(だから、何度でも失敗できる)社会的存在」のことであり、弱者とは「リスクをヘッジできない(だから、一度の失敗も許されない)社会的存在」のことである。社会における人間の強弱は(赤木の想像とは違って)、成功できる機会の数ではなく、失敗できる機会の数で決まるのである。
 […] 
 格差はつねに存在し、私たちは(意識しようとしまいと)そのつどすでに私が所有しなければ違う誰かに属していたはずのパンをおのれの口に咥えている。これは動かしがたい事実である。けれども、人間を差異化する根源的なカテゴリーはパンの有無によって決まるのではない。差異はたまたま自分の口にあるパンについて「私にはそれを占有する権利がある」と思っている人間と、「私にはそれを他者に贈与する権利がある」と思っている人間の間に引かれている。
 どちらもパンについての自由裁量権を持つことを喜びとする点では変わらない。だが、人間の共同体は後者のタイプの人間を一定数含むことなしには成立しないのである。
善意の格差論のもたらす害についてよりー

 ただ、問題の有り様を意識っていうか、「心の有り様」に還元すると次の一手というか、処方箋が具体的に提示出来ない。まあ、内田先生は蹈鞴踏むのが得意中の武道の達人だから問題点を内田樹的に指摘するだけで良いかもしれないが、当事者として切羽詰まった局面を悪戦苦闘している人にとってイライラ感が募ると思う。
 それより、『ロスジェネ』創刊号で萱野稔人が「なぜ私はサヨクなのか」の論考において、《左翼は人間の意識や精神といったものから問題をたてない、ということだ。》として「生き方やモラルを押しつけないのが左翼のよさ」だとして、徹底して制度の問題として「ロスジェネ」にアクセスしようとしている振る舞いにより誠実なものを感じる。
 ミクシィコミュからスタッフの方の広報を転載します。気合いが入っていますねぇ。興味ある方はどうぞ、m(__)m

超左翼マガジン「ロスジェネ」の創刊イベントです。
ロスジェネ世代の論客が総出演。これはくるっきゃないです。
ちなみに「ロスジェネ」は、新宿紀伊國屋本館3階で、3週連続週刊売り上げベスト10入り!
ロスジェネ公式HP http://losgene.org/
なんとかキャパ400を埋めねば、決死の覚悟で企画通してくださった紀伊國屋&出版社にもうしわけないっす。
【言論空間に挑む新雑誌】
次々に世に出る「思想地図」(NHK出版)、『VOL』(以文社)、「フリーターズフリー」(人文書院)、そして「ロスジェネ」(かもがわ出版)。編集者たちは何を目指すのか。徹底討論の場を設定した。
6 月27 日(金)19:00 開演(18:30 開場)
ところ 東京・紀伊国屋新宿南店サザンシアター (紀伊國屋書店 新宿南店7 階)
料金 1,000 円(税込/ 全席自由)
 〈第1部〉出演者
浅尾大輔 作家、「ロスジェネ」編集長
雨宮処凛 作家
増山麗奈 画家、「ロスジェネ」編集委員
 〈第2部〉 出演者
赤木智弘 フリーライター
・東 浩紀 東京工業大学特任教授、「思想地図」編集委員
大澤信亮 批評家、「ロスジェネ」編集委員
萱野稔人 津田塾大学准教授、「VOL」編集委員
杉田俊介 介護労働者、ライター、「フリーターズフリー」編集委員
■チケット前売所 ■電話予約・問合せ■Web予約 ■サイン会参加方法
■共催 キノチケットカウンター(新宿本店5 階) 紀伊國屋サザンシアター(新宿南店7 階)(いずれも受付時間は10:00 〜18:30)紀伊國屋サザンシアター 03-5361-3321(10:00 〜18:30)
※予約開始は5月26日(月)より http://www.kinokuniya.co.jp
当日、会場にて出演者の著作をお買い上げの先着150 名様に整理券を配付いたします。かもがわ出版紀伊國屋書店

 大阪か、京都あたりで内田樹×萱野稔人とのトークバトルをどこかの本屋さんで企画して欲しいなぁ。
 追伸:詳細はわからないけれど、秋では、ロスジェネ関西大ツアーをやるよていなので、楽しみにしていてください〜。とのことです。ちなみに7月18日は、浅尾編集長が関西出張でイベントをやるよていです。