松本昌次/竹内好

竹内好集 (戦後文学エッセイ選)竹内好「日本のアジア主義」精読 (岩波現代文庫)わたしの戦後出版史日本とアジア (ちくま学芸文庫)
前日のエントリー竹内好に関するシンポジウムを広報しましたが、
そう言えば、bk1に直近で『わたしの戦後出版史』のレビューを書きましたが、語り部編集者松本昌次は竹内好とも縁が深くて、本書で竹内好について興味深い言及がありましたよ。
全文、bk1よりコピペアップします。

【今でも「理想の時代」を突っ走る狂いの「全身編集者」】(2008/09/15 0:42:08)
 昭和一桁生まれの人は強かで適わないと思う。戦後が青春のスタートであったわけだ。松本は東北大学を卒業して都立高校夜間部の時間講師をする。それもちゃんと正規の教員の口があって給料が三分の一なのに、わざわざ、それを蹴るようなバカなことをする。夜間部の働きながら学んでいる学生たちに出会えることに魅力を感じたというのですねぇ。今から言えば「狂っている」と言われ兼ねない。
 本書の扉に松本と縁の深い花田清輝の『復興期の精神』の跋から《個人のオリジナルティーなど知れたものである。/時代のオリジナルティーこそ大切だ。》という言葉が採録されているが、そんな「理想を信じる」ことの出来る時代だったんだと改めて思う。
 「理想」が磁場となっているから「一目惚れ」が稼働して濃い過ぎる人のネットワークが色んな局面で松本を支えたんだと思う。「理想の内容」を後付で冷笑したり、アイロニカルに批評しても松本の「生き抜いた」という実感に抗しきれないだろう。
 本書はベタに熱い「聞き書き本」です。でもそれが素直に受信できたのは、聞き手の元名物編集長お二人の大出版社の役員として清濁併せ呑む世渡りしたある種の痛恨の思いが、松本昌次に対する潔い見事な生き方に「とてもマネできない」と、敬服しているのが、端々に感じられたから、僕自身も感応したのかもしれない。
 花田清輝の『アヴァンギャルド芸術』、丸山真男の『現代政治の思想と行動』、埴谷雄高の評論、本田秋五の『転向文学論』、橋川文三の『日本浪漫派批判序説』など、25歳の時から未来社で30年、、1983年から影書房を創業して現在に至っているのですが、関わった書籍が2000点というから驚きます。
 編集者になる前に竹内好が後に「タタキ大工」と名づけた庄幸司郎との出会いが松本にとって何よりも代え難いものだったと思う。夜間高校の教師と生徒の関係だったのですが、松本は夜間高校を一学期でクビになってしまう。だけど、生徒たちが松本の首切り反対のハンガーストライキを校門前でやりその首謀者が大工の庄幸だったのです。以後、50年間亡くなるまで交友を続けるわけです。
 クビになった松本は庄幸のところに大工として弟子入りするが、使いものにならない。お前はいかにも労働者の手だけれど、俺はダメだ。インテリは本を読むしか能がないのだ。その代わり、君が働いている間、俺が本を読んでそれをダイジェストして教えてあげよう、それでおあいこだと、奇妙な二人三脚が始まったわけです。何という友情。それから未来社に入社するわけです。
 そのような友情エピソードが編集者、作家、学者、演劇人と問わず松本との間にふんだんにあるが、やはり未来社の創業者の西谷能雄と庄幸司郎とは特別でしょう。
 面白いことに庄幸は松本が手掛けた執筆者の家を建てたり造作したり、原稿依頼をしながら、庄幸の大工仕事の営業までやってしまうのですから笑ってしまう。でも、庄幸も物心両面から松本の出版活動を支える。
 63年に「庄建設株式会社」になり、野間宏平野謙竹内好西郷信綱などが寄稿して松本が営業パンフレッドを作成したと言うのだからこれ又驚き。
 今の出版界は失われた12年と言われるように毎年業界全体の売上げが減少と疲弊しているが、委託制度、再販維持制度を手放さないでご都合主義のマーケティング理論で乗り切ろうとする浅はかさよりは、松本のように売れる売れないは余り念頭になく、著者に惚れるから出版するという「理想」だけで50年あまりも出版活動を持続できたことに頭をたれてしまう。
 そこに「狂い」がある。出版市場を計算高くマーケティングする以前に「狂い」があるのです。その狂いが時には当たる。それが出版界の摩訶不思議なところでしょう。
 読み終わった時に僕は松本さんに嫉妬しましたよ。何と、素晴らしい生を生き抜いたかと。いや、まだ、80歳現役進行中です。ーhttp://www.bk1.jp/review/0000468574よりー

 「エルライブラリー」大阪府のヒモ付きから自助で雄々しく?羽ばたくのだから、積極的に営業が出来るようになったとも言える。まずは、「庄幸建設株式会社」のような営業パンフを発行して色んな人に寄稿してもらってもいいのではないかと思う。勿論、そもそもの発端になった橋下徹とか、生粋の大阪人でもある就職氷河期世代の中島岳志とか、高村薫鶴見俊輔田辺聖子とか、生田武志ビッグイシューの人達とかに寄稿してもらえばいいと思う。
 ただ、その前にどのようなビジネスを立ち上げるかですねぇ。持続可能な「PARC自由学校」のような教室を大阪に立ち上げるとか、私塾の伝統のある大阪には可能だと思う。