<関係性の貧困>がカネを生む。

追記:<関係性の貧困>がオレオレを、ガザを、オウムを生み、9/11、ヒロシマ、そしてアウシュヴィッツ、…。ぶんまおさんは、『ボクの哲学モドキ ?』こんなことを書いている。《もっとも理性的と考えられた科学は、結局は人間の野蛮な力を増しただけではなかったか。ユダヤ人哲学者アノルドが提起した深刻な問題はそれだった。「アウシュビッツのあとではまだ生きることができるか」とアノルドは問う(『否定弁証法)』。そして、「アウシュヴィッツ以降の文化はすべて、そうした文化に対する切なる批判を含めて、ゴミ屑である」と糾弾する。p201》オレオレ、ガザを生む狂気とボクたちは無縁ではない。単なる排除では、又、別の怪物となって出現するだろう。「自分の内なる闘い」として認識することが肝心なのではないか。

マイミクさんの情報から知ったのですが、NHKスペシャル“職業 詐欺” (http://www.nhk.or.jp/special/onair/090209.html)番組は非常の秀逸のドキュメントだったらしい。未見だったけれど、再放送されることなので忘れないで見たいです。(2月12日(木)の午前0:45から再放送)
彼の番組に対するコメントをコピペします。

正に現代社会における病理の縮図といった感じで、果たしてこのドキュメンタリー以上の寓話なんて自分に描けるのかなぁなんて思ってしまいました。まあ、こういう人たちを見ると精神が磨耗するので積極的に描きたくはないですけどね・・・。
無論、被害に遭われた方々はお気の毒極まり無いのですが、まるでホリエモン外資系証券マンの劣化再生産のような振り込め詐欺の主犯の若者たち、彼らの証言を聞いていると、彼らの人生は本当に貧しくて、心の中は虚無そのものなんじゃないか、被害者以上に哀れな存在が振り込め詐欺の実行犯なのではないかと思います。大量消費社会へのあまりにも素直過ぎる適応というか。
彼らは老人たちからだまし取った金でイイ車乗って、イイ女連れ回して、イイ家に住んで毎晩豪遊している自らの暮らしぶりをカメラの前で誇らしく語っているのですが(こういう証言を引き出すインタビュアーも凄いですよね)、年収200万円の僕は、彼らのことをこれっぽっちもうらやましいとは思えなくて、逆になんて貧しい人たちなんだろうと思っちゃいましたよ、ルサンチマン抜きに。
というのも彼らの言う『イイ車』『イイ女』って何を指すんだろうってことなんですよね。本当に車が好きな人だったら、エンジンだったりホイールだったり、ステアリングだったり、自動車というプロダクトに込められた様々な人間たちの切磋琢磨、思いに対してリスペクトの念を抱かずにはおれないはずなんですよ。本当に女好きだったら、女性に対してリスペクトを抱くはずでしょう。他者へのリスペクトの念を持つ者、つまり本当にイイものは何かを知っている人間は、他者との信頼という、交換不可能な関係性をその価値も分からず換金するような愚かな真似ができるはずがないんですよ。
だから彼らはイイ車に乗ってイイ女をつれ歩いていても、その価値をちっとも理解できていないんじゃないでしょうか。これは恐ろしい貧困、虚無と言わざるを得ません。一度、信用をお金に換えてしまった人間は、果たして他者へのリスペクトを取り戻すことができるのでしょうか。それはもしかすると何千万、何億稼ぐよりも難しいことなのかもしれません。
会社にでも通勤するように毎朝遅刻せずにオフィスに集まり、一日何百件もの電話を繰り返し、ルーチンワークとして老人たちを騙している彼らは、アウシュビッツルーチンワークで老人や子供をガス室に送るナチスドイツの兵士たちと同じ心理状態、つまり戦争と同じような状態なんじゃないかと思います。
彼らのボスの言う「自分の中の正義さえ作ることができれば、何だってできるんだよ」という言葉は正に戦争において殺人を正当化する言葉です。
振り込め詐欺を行う若者の多くが一流大学を卒業していたりするそうなんですが、やはり現行の教育制度は完全に形骸化してしまったと思わずにおれません。もちろん、彼らは極端な例ではありますが、彼らと同様のニヒリズムを共有している若者って多いのではないでしょうか。そして、彼らのように露骨に法律は犯さずとも、多くの企業では、その経済活動において情報の非対象を利用して金を巻き上げようという荒廃した心性は共通しているのではないでしょうか。更に言えば南北格差を前提としたグローバル経済そのものも他者に対する共感を欠くが故に成立していると言えるでしょう。
いや、教育制度が形骸化というのは間違いで、むしろ完璧に機能しすぎたと言うべきなのかもしれません。より社会的ステータスの高い企業に就職することのみを目的とした手段としての教育制度は、最終的にはこうした魂の貧困を生み出してゆく。振り込め詐欺の実行犯たち、躊躇とか無さそうだから『仕事』はできるだろうなぁ(笑?)
行動経済学者の小幡績は『すべての経済はバブルに通じる』において「資本主義はねずみ講である」と喝破しましたが、オウム真理教が僕たちの社会のグロテスクな縮図であったのと同じく、振り込め詐欺も僕たちの社会のエッセンスが抽出されたものなんじゃないかと思います。
人と人との信頼が大事なんだ、なんて言うと青臭いように思われるかもしれませんが、理想論や倫理道徳のレベルではなく、ある程度人が人を信用し、思いやることがなくては社会は正常に回っていかない最低限の域値というのがあって、このままだと多くの人々がそれを越えてしまうのではないでしょうか。多発する食品偽装事件も、健康被害そのものよりも人々の食に対する信頼を揺るがせたことがより深刻な問題である訳で。
ダークナイト』でも描かれた囚人のジレンマ状態、つまり本来人と人は信頼し合わなくてはならないのに、人を疑わなくては短期的な生存が危うくなる場合、多くの人間は自分の命を危険にさらして他者を信用しようとはしないでしょう。親は子に「人を信じなさい」と教えるべきなんでしょうか、それとも「人を決して信じてはならない」と教えるべきなんでしょうか。
振り込め詐欺の実行犯達によれば、今は絶好のリクルートの機会なんだそうです。というのも、内定を取り消され、社会に不信を抱き、自分は優秀なのに認めてもらえなかったと考える大学生は、振り込め詐欺の共犯者としてもってこいで、彼らに言わせれば『幹部候補生』なんだそうです。巷にあふれた失業者は自分の銀行口座の名義や健康保険証を安値で売り、生活苦からATMのから現金を引き出すハイリスクな『出し子』を引き受ける。皮肉な話ですが、『正規雇用』からあぶれた人々をマメにリクルートする彼らの雇用の多様性は硬直した表の社会よりも高く、イノベーションも起きやすい環境にあるように感じました。恐らく今後、より高度な詐欺が日本の至る所で、同時多発的に引き起こされるんじゃないかと思います。少なくともその土壌は整備されつつある。
世代間の所得格差が開きつつある現状に政治も社会も無策である中、年長世代から若者世代への暴力的な富の移転とも言える振り込め詐欺、そういう意味で彼らに正当性を与えてしまっているのは我々自身でもある訳なんですが、何であれ世代交代は不信によってではなく、お互いの信頼とリスペクトによってなされるべきでしょう。
僕は、振り込め詐欺の被害者にならないように個々人が努力するだけでなはなく、自分自身が詐欺の加害者、人と人との信用を安易に金に換えるような人間にならないように努力すべきなんじゃないかと思います。
自分は絶対に大丈夫だ、という人は、どうして自分は大丈夫なのか、自分が幸運にも彼らのような哀れな存在ににならなかったのは何故なのか、改めて振り返ってみるべきなのかもしれません。その理由は人それぞれなんでしょうが、それこそが僕たちが後世に伝えてゆくべき、最も価値のある相続財産なのかもしれません。
それは決して当たり前のことではない。
これまでは当たり前だったかもしれませんが、これからは維持する為の積極的な努力が必要になってくるように思います。

こちらの動画は実際民放で放送されたとき見たものです。M1グランプリ以上に笑えました。
イマイが暴く 振りこめ詐欺 1/3 : http://www.youtube.com/watch?v=jeDHCwYBtoQ/2/3 : http://www.youtube.com/watch?v=3ofCyX1jr-E/3/3http://www.youtube.com/watch?v=xauHikOzPIA

イマイと申します。―詐欺を追いつめる報道記者 (新潮文庫)

イマイと申します。―詐欺を追いつめる報道記者 (新潮文庫)

イマイさんの振り込め詐欺は牧歌的だし、笑えるけれど、段々進化しているみたいですねぇ。去年の被害額は276億円、5年間の累計では1300億円を超えたとのこと。NHKでこんな紹介をしていました。

実行犯は20代の若者がほとんどで、有名大学や一流企業の出身者も多い。詐欺を「仕事」、実行犯を「従業員」と呼び、友人、知人を“高給”でスカウトし組織化を進める。「騙される方がバカ」と悪びれず、高級マンションや外車を購入、「金こそ全て」の生活を送る。逮捕のリスクが高い犯行は、安い報酬で雇った生活苦の失業者を使うなど極めて悪質だ。雇用環境が悪化する中、これまで犯罪とは無縁だった人々が「明日の生活費が欲しい」と、振り込め詐欺組織の下働きをする構図が生まれている。若者たちはなぜ詐欺に走ったのか。その軌跡を徹底的に取材し辿っていくことによって、日本社会の抱えるいびつな病理を浮かび上がらせる。

資本の原理は<関係性の貧困>を極限まで詰めることによって需要を喚起されるような構造になっている。「お金だけが頼りなの」って。一家に一台の車ではなく、一人に一台。大家族で食事をするのではなく、核家族。ヒトの関係を分断すれば、カネで空隙を埋めるしかない。他方で少子化もどんどん進行している。まあ、こちらは、処方箋がなきにしもあらず。移民、難民を受け入れて帰化申請のハードルを低くして人口増を図る。しかし、何百年後になるかも知れないけれど、世界全体の少子化が進行すれば、その頃になれば、あたりまえのようにクローン人間が誕生するかもしれない。クローン人間同士の関係性はどうだろう。もの凄く濃密のような気もするねぇ。不気味だけれど。

クローン人間 (光文社新書)

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◆先日、NHKで知った滋賀県警察本部のHP振り込め詐欺防止啓発ソング 「だまされたらあかん!」 が音声アップされている。ダウンロードが出来ますよ。良くできた歌詞と音楽で、カラオケに登録されていないのかなぁ。ノリやすいよ♪http://www.pref.shiga.jp/police/seikatu/seikatu/song.html