小田光雄/出版クロニクル13

出版状況クロニクルが更新されましたね。
今回は前回に増して長文です。出版流通業界に関しては小田光雄さんのこのクロニクルを読めばグーグルマップのように、俯瞰も出来るし、ピンポイント接近の道標にもなる。
今回は珍しく、新作の翻訳本を紹介してくれている。確かに翻訳本はエンターティメントであっても店頭で売りがたいかもしれない。一昨年だったか、保坂和志掲示保板でラテンアメリカ文学撰集に収録されているアドルフォ・ビオイ=カサレスの『脱獄計画』(現代企画室)が紹介され、偶々ジュンク堂大阪本店の棚で見つけたが、奥付に初版2000部、発行日が1993年と書かれていた。15年かけて、売り続けているのです。そのクロニクルに圧倒されて思わず購入したが、とても謎に満ちたスリリングな本でした。確かに近代小説は時計回りに南米で完成し、ミステリーは逆回りに北欧で完成したのかもしれない。
ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 上ガン病棟〈第1部〉 (1969年)死都ゴモラ―世界の裏側を支配する暗黒帝国

しかし日本では『死都ゴモラ』はまったく話題にもならず、『ミレニアム』の2冊も何とか重版にこぎつけたところのようだ。それはイタリアやスウェーデンにはまだ読者の共同体が存続していることに比べ、日本ではすでに崩壊しているからではないだろうか。『ミレニアム』と『死都ゴモラ』の欧米でのベストセラー化と、日本の相変わらずの血液型などのベストセラー現象を対比させると、不遜を承知で言えば、本当に日本は文化先進国どころか、読書後進国だと思わざるを得ない。(http://www.ronso.co.jp/netcontents/chronicle/chronicle.html

僕は今、図書館のリサイクル棚にあったソルジェニーツィンの『ガン病棟(上)(下)』を読んでいます。30年以上前本屋の店頭で、どんと平積みして、僕自身も売るだけではなく、購入もしたのですが、『イワン・デニーソヴィチの一日』は当時、直ぐに読んだにもかかわらず、『ガン病棟』は書名に怖れを感じてか積ん読になっており、いつしか、古本屋に処分されたものと思われる。
そして、図書館のリサイクル棚で再会したわけです。ガン患者の当事者として身構えて読み始めたのに、物語としての骨格が揺るぎないためか、エンターテイメントとしての近代小説の完成系として美味しく読める。読書中ですが、ゆっくり噛みながら読んでいます。