派遣国家UAE

地獄のドバイ―高級リゾート地で見た悪夢

地獄のドバイ―高級リゾート地で見た悪夢

久しぶりに『本の雑誌』(2009年12月)を読んでいたらエンタメ・ノンフって言うのですか、高野秀行の「派遣国家ドバイのカフカ的派遣切り」のレビューには不謹慎にも大笑いしてしまった。勿論、峯山政宏の『地獄のドバイ』を読みたくなりましたよ。
ドバイの派遣労働者は派遣切りに合うと刑務所に入れられると言うのです。そんなバカな!と思うけれど、著者の峯山さん本人が体験したことなのです。

 拘置所は地獄のような場所だった。狭い監獄には囚人(としか言いようがない)が三百人以上。ここには風呂がないので、一年以上体を洗っていない者もごろごろいるし、便所は便がむき出しで山盛りで卒倒するような悪臭が充満し、食事は文字通り腐っている、
 だが本書の面白さは、監獄の悲惨さではない。著者のエンタメ・ノンフ的精神と文才なのだ。監獄のめっちゃくちゃぶりが巧妙な筆致で描かれる。例えば、なぜか監獄内ではみんなタバコを吹かしているのだが、誰一人としてライターやマッチをもっていない。三百人の囚人たちがタバコ同士をくっつけて延々と火をリレーする様子は比叡山延暦寺に1200年間灯されている「不滅の法灯」を連想させると真面目な口調で語る。あるいは猛暑の監獄で飲み水が圧倒的に不足し、あまりの渇きにみんなが『あしたのジョー』の力石徹みたいに殺気立ってくるとか、比喩と実情のアンバランスさがいちいち面白い。(中略)
 幸なことに峯山さんは四日後に日本大使館への連絡に成功、釈放が決まったが最後もオチが。やっと拘置所の外に出たはいいが、一緒に釈放されたパキスタン人たちが感動のあまりアッラーにお祈りをはじめ、でもまだ一緒に手錠と足枷で互いにつながれた状態だったため、峯山さんも否応なしに地面に跪いては立ち上がるという動作を繰り返すはめになり、「人生最大のありがた迷惑だった」と嘆く。(p29)

 派遣国家UAEアラブ首長国連邦)では重役以外はみんな派遣社員から成り立っていると言っても過言ではない。
 ドバイでは「現地の人に出会わない」。現場の仕事は外国人労働者に任されているわけ。そして、UAE派遣労働者はオーナー(雇い主)のスポンサー名(保証人みたいなものか)で登録され、そのスポンサーシップから外されると拘置所送りとなる法律があるわけです。怖い。