『もし出版社の社長がドラッカーの「マネジメント」を読んだら』

エル・ライブラリーに出入りしながら、なんとなく、大阪府の「文化行政」の冷たさに図書館にしろ、博物館・美術館のハコものは書店のように大幅に毎年減っているのではないかとの思い込みがあったけれど、小田光雄さんの「出版状況クロニクル24」を読むと多少の予見がありましたねぇ。書店のような大幅な減変ではない。だからこそ、対応の難しさがあるのかも知れない。
出版流通業界にあっては、「委託・再販維持制度」が有名無実だとしても、「●●護持」のような呪術的な「お守り」になっている。それに対する「吹っ切れ」の精神改革がまず必要かもしれない。
『出版状況クロニクル2』(論創社)が5月半ばに刊行となりますが、ネットで公開されている最新の『出版状況クリニクル24』を一部引用しながら、読んでゆきます。
出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日) - 出版・読書メモランダム 出版状況クロニクル24(2010年3月26日〜4月30日) - 出版・読書メモランダム

1.日本図書館協会の『日本の図書館 統計と名簿〈2009〉』 が出された。1971年から2009年にかけての公共図書館の経年変化を示す。なお「年間受入図書館冊数」「個人貸出」は当該前年度の数字である。
『出版状況クロニクル2』で、出版物に関する第一次市場を書店、第三次市場を公共図書館と位置づけ、それらの変化を明確に記しておいた。それと重なることになるが、公共図書館は表に見られるように、71年の885館に対して、09年には3164館と大幅に増加し、3.6倍になっている。
 しかもそのスペースの拡大規模はそれを上回っているはずで、貸出冊数だけを見ても、2400万冊から7億冊に及んでいて、30倍近い数字を示している。この数字はこの30年間の公共図書館の驚くべき成長であり、それが書店の減少とパラレルであったという事実を証明している。
 再販委託制による書店の衰退と無料の公共図書館の成長こそは、出版業界の光と影のコントラストを示してあまりある。しかし数字が告げているように、公共図書館の成長も終わったと見るべきで、その内実が問われる時代へと入っている。だがそれは実現可能なのであろうか

しかし、こんな状況はどこでもそうなのかと言えば欧米と比べてだいぶ傾向が違う。恐らくそこに日本独自の「出版流通システム」がバリアとなって横たわっているのでしょうねぇ。

これも『出版状況クロニクル2』で指摘しておいたことだが、欧米も出版不況にあるとされている。しかしそれは書店とネットの競合、雑誌に顕著に現われている現象であって、書籍売上高は微増、横ばい、微減で、それほど落ちこんでいない。アメリカにしても2年連続前年割れだが、2%減の238億5500万ドルにとどまっている。
 それに反して、日本の書籍売上高は97年以降の数年を除き、ずっと減少をたどる一方だった。具体的に数字を示せば、97年1兆730億円に対し、09年は8492億円であるから、20%強の落ちこみである。欧米と比較して、日本だけが未曾有の出版危機の渦中にあることは明白であろう。これはすでに機能しなくなっている再販委託制という日本の出版業界の特殊な構造に起因していると考えるしかない

問題の一つにメディアの腰の据わり方もあるかもしれない。

5.ライブドアのオピニオンサイト「アゴラ」編集長にして、電子書籍出版社「アゴラブックス」を設立した池田信夫がブログで「週刊ダイヤモンドの消えた特集」を掲載している。
それによれば『週刊ダイヤモンド』(4/6号)の特集は「電子書籍と出版業界」という60ページ企画で、出版不況の現在、出版社や取次などの対応に言及するものだった。ところが2週間後に迫った締切を前に、この特集はすべて没になった。池田も1ヵ月前から企画の内容の相談を受けていたのである。没になった理由は、電子書籍出版社協会や講談社の関係からの経営判断によるとされる。
「タブーを破って電波利権などのテーマに挑んできた週刊ダイヤモンドも、自分の業界のタブーからは自由ではなかった」と記している。
この池田のブログの発信を受け、元社員で株主の和田昌樹がこれも自己のブログ「書店・取次の顔を立てて業界のモラール・ハザードを生んだ週刊ダイヤモンドの自主規制」なる長文を発表し、ダイヤモンド社の奥谷社長の「自主規制」責任を問うている。すると1日500人のビジターだったのが、いきなり1万人に及んだという。

21世紀になってもメディアの体質は19世紀、20世紀の芥を禊ぎ出来ないのでしょうか。
国会図書館の果敢な挑戦に期待しますよ。それに付随してエル・ライブラリーのような専門図書館が「膨大な蔵書の電子化と電子図書館システムの構築」をして欲しい。それが「未来の図書館」の重要なお仕事の一つに間違いない。

7.電子書籍問題と相まって、『週刊エコノミスト』(4/20)がワイドインタビュー「問答有用」(聞き手:大迫麻記子)で、国立国会図書館長の長尾真の発言を掲載している。長尾は情報工学の世界的権威で、膨大な蔵書の電子化と電子図書館システムの構築にあたっている。著書の『電子図書館』 はこのほど再刊された。

小田さんの《本を読むことは個の営みであるという事実、多品種少量販売という本の基本的特性すらも消滅し、群衆による瞬間的消費のイメージに覆われてしまっている。寺山修司の「ベストセラーの読者になるよりも、一通の手紙の読者になることの方が、ずっとしあわせなのだ」という言葉はもはや死語と化してしまった光景があるだけだ。》はしみじみと身に染みいる。
最後にちょっとだけいいニュースを引用します。

17.『出版ニュース』(4/下)で、高橋将人が「消えゆく小さな地方出版社閉鎖を前に思わぬ注文の嵐」を寄せている。高橋はずっと郷土出版社の経営者だったが、病に倒れ、療養生活の後、平成16年に信州に関係する本だけを刊行する一草舎を長野に設立し、6年間で102点を出版した。しかし入院生活を繰り返し、一草舎の経営が悪化し、任意整理で解散することになった。
ところが『朝日新聞』(3 月19日)の「声」欄に「なくなる小出版社に良い本」という投書が掲載され、そこで一草舎の『宮口しずえ童話名作集』が紹介されたことで、注文が殺到し、 19日から21日の3日間で333冊、月末に至って656冊が売れ、残りの160部も完売できそうだと報告している。
[実は3月初旬に元リブロの今泉正光にインタビューするために長野に出かけ、一草舎の閉鎖に伴う平安堂での全店20%引きフェアを見てきている。そのすぐ後に投書を目にし、反響を確認してから書くつもりでいた。すると高橋からの報告がなされたので、それを紹介し、言及に代える。
 しかし一言だけ付け加えれば、注文は『宮口しずえ童話名作集』だけに集中し、一草舎の他の本にはほとんど問い合わせがなされなかったようだ。このような場合にも、一点だけに集中してしまう現在の本の売れ行き現象が投影されているようにも思える]

一点だけに集中してしまう状況は「デジタル時代」の避けられぬ「振る舞い」なのかもしれない。
線と面のアナログ時代は段々と遠くなる。