武士の家計簿/原作の拙レビューも


昨日は久しぶりに地元のシネコンで映画を見る。
見る前に回転寿司の「スシロー」が同じビルにあるので、にぎりをつまむ。
そしたら、あっと言う間に15皿も食べてしまった。でも105円だけど、
1575円也、算用もの、猪山氏はどのように評価してくれるでしょうか?
早食いなので、満腹度が食べ終わって襲って来て、
苦しゅうなってきました。一日1800カロリーが退院してから、維持できないなぁ。
スシローの寿司は結構いけます。美味しいです。お得感があります。
そして、ぽんぽんのお腹で『武士の家計簿』を観たわけですが、
食後のデザート向き、最適メニュー映画だったと思います。小品ですが、こんな映画もいいものです。
しかし、監督が森田芳光なんですねぇ。こんな淡泊な映画をつくるようになったんだ。
原作は発売されたとき読んでいますが、とても新鮮なドキュメントでしたねぇ。
遠くの記憶でひょっとして『武士の家計簿』はbk1にレビュー投稿したと思い、検索したらありました。2003年ですね。全文引用してお目目を汚させて下さい。

【瑣末が情報の宝庫であり得る。日々、オンライン日記をアップしている人に読んで貰いたい。】
栗山光司/2003/09/16
 算術音痴の僕は家計簿であっても、引いてしまうのに面白評判に抗し切れず手に取ってしまった。近世武士と合理性は相反する気がするが、家計簿という生々しい日常の場にあっては当然ながら、江戸封建制の意外なセキュリティ度の高さ平等性に驚かされる。
 建前として、自由、平等を標榜しながら、実態は排他主義で構築された本音が見え隠れする社会と違って、封建身分社会と蔑視されながら、パイの分配がほどよく廻り、相互扶助も稼働して、現在の日米欧のシステムと比べても、限りある資源という視点から見れば、遜色ないのではないか、そんなことを思った。
 <考えてみれば、江戸時代は「圧倒的な勝ち組」を作らないような社会であった。武士は威張っているけれど、しばしば自分の召使いよりも金を持っていない。武士は、身分のために支払うべき代償(身分費用)が大きく、江戸時代も終わりになると、それほど「お得な身分」ではなくなってきていた。一方、商人は大金持ちだが卑しい職業とされ、武士の面前では平伏させられ、しばしば武士に憧れの目をむけていた。献金して武士身分を得ようとしたりする。江戸時代はまったく不思議な社会である。>(89)
 このような権力・威信・経済力などが一手に握られていない状態を社会学では「地位非一貫性」というらしい。まさにガス抜きした安全弁が巧妙に工夫された社会システムではないか。アメリカ的競争原理とは違うけど、テロを抑止するシステムとしては、近世江戸は数段、優れている。アメリカ的グローバルシステムは余りに、乱暴な力の自由に頼りすぎている。 
 そんな問題意識で読み進むと、様々な発見がある。明治維新後、「加賀藩御算用者」猪山成之は海軍省に勤務し、課長位で現在感覚では年収三千六百万円程、官職に就くことが出来なかった士族は授産所のようなところで働いて、百五十万円ぐらいか、明治維新は官僚天国が構築された改革だと捉えても間違いない。それが、いまだに続いているのだ。その官僚制に改革のメスをいれるには、長い年月の絡み合った糸を解す事から始めなくてはならないのであろうか。
 この加賀藩当時の家計簿で驚いたのは、冠婚葬祭、教育費の割合の高さである。日常の場では慎ましい食卓を囲んでいるのが分かる。下女、下男、に対する心付けは自分の小遣いよりは優先している。単に武士道と片づけられない倫理観が生きている。身体化された作法(振舞)が共有されていたのであろう。
 明治になって、成之は匿名で私財をなげうって「加賀能育英事業」をはじめたが、作者は愛情込めて<猪山親子は「寡欲」であり「正直」であったが、それは裏返せば、没個性的な性格であったともいえる。まず政治への意思というのが微塵もなかった。幕末は政治の季節であり、有能な者は、皆、政治に走った。建白をし、脱藩をし、人を斬る者さえいた。ところが、猪山親子は能力と才能は有り余っているのに、全く政治的な動きをした形跡がない。>(142)と、記す。
 猪山家の様な身の処し方が通常ではなかったか、ただ、ハレの舞台に登場しなかったので、日本史からこぼれ落ちたが、淡々と日常を記述する日記なり、家計簿のような今で言うオンライン的カキコが、蘇って現在の私たちの目に新鮮な驚きを与えてくれるのは、瑣末が時として情報の宝庫となりうるのを再認識した。
 はしがきにこの本が上梓出来たエピソードを記しているが、『金沢藩士猪山家文書』を目録によって見付け、急ぎ足で十六万円を懐に神田の古書店に向かって、そのハイテンションを維持したまま、一気に書き上げた若手研究家の熱気が伝わってくる。ノリノリの、ジャンルを越えて、色々と外に拡がる書き下ろし新書としては、本年度の記憶すべき一冊であろう。
http://www.bk1.jp/product/02309825/reviewlist/

映画『武士の家計簿』で巡る百万石の金沢武士の家計簿 ―「加賀藩御算用者」の幕末維新 (新潮新書)