「一冊の詩集が少子高齢化時代の不安を癒すか?」


僕の bk1投稿書評をここにもアップ。
「一冊の詩集が少子高齢化時代の不安を癒すか?」/栗山光司/2011/09/22 11:39:14

 敬老の日に老母や仲間たちから評判の良い大ベストセラーズになっている詩集『くじけないで』に続く第二詩集『百歳』を購入してしまいました。店頭のいたるところに陳列されていた。老母に渡したら、すぐに読み終わって老人仲間たちで回し読みしている。『くじけないで』もそうやってみんなで読んだのに150万部売れ部数とは、ひょっとして読んだ人は200万人超えかと想像したくなる。
 僕としては詩集の中身以前に「社会現象として」90歳から詩作を始めたトヨさんの「詩集」が何故ここまで人々の心を惹きつけたのか興味津々で分析したくなる。
 読んだお婆ちゃんに感想を聞くと素直に涙を流し、感動している。老母なんか自分の体験と重なるところが多いと、トヨさんに親近感を覚えている。でもねぇ。いまのところ読んだお爺ちゃんにお目にかかっていない。僕のように読んだ爺がいても感想を述べるのはなんか恥ずかしいところがある。感動はしてしまうのです。「お婆ちゃんはスゴイ!」って単純に…やはり、「女の一生」の物語が基底にあってのきらめく詩の言葉でしょう。
 《/美空ひばりが大好きでした。船村徹先生が作曲した「別れの一本杉」の作詞者、高野公男さんの歌詞や美空ひばりの「哀愁出船」や「哀愁波止場」「悲しい酒」などのいろいろな曲の言葉の綾に感心し、歌詞ノートに書き写したりしていました。歌謡曲の詞をかみしめながら聴いているうちに、幸せな気分になったり、切ない気持ちになったり、そして、「明日からまた頑張ろう」と思うことができました。/私の詩は、「しまいのところ」でひとくくりつけちゃうんです。難しい言葉は一切使わないで、やさしい言葉で書くようにしています。いらない文句は全部省いて、必要な言葉だけで、「用が済む言葉」だけで作っていくんです。これがなかなか難しいです。でも、難しいから楽しくもあるんですね。p88》
 この詩集には「やさしい」という言葉はふんだんに登場します。「思いやり」と「やさしさ」でこの世がまわれば確かに素敵です。ハッピーになるなら何度も何度もリフレーンしましょう。歌いましょう。
 でも、爺は「男の文化・物語」を症候的に内在化しちゃってるのか、「そうは言ってもねぇ、なかなか相田みつをになれません」と項垂れる。
 僕はのど元にひっかかっているシリアスなトゲを吐き出して「辛辣な言葉」を投げつけてみたい気もするけれどやっと思いとどまる。巣鴨の「とげぬき地蔵」さんでいいではないか。爺たちは女たちを抑圧した「罪と罰」でとげぬき地蔵さんになるのもよいかもねぇ。
 ≪流行(p14)/世界の何処かで/今も 戦争が起こっている/日本の何処かで/いじめも起きている/やさしさの/インフルエンザが/流行しないかしら/思いやりの症状が/まんえんすればいい≫
 世界の貧困・排除の「南北問題」も「民族問題」も「エネルギー問題」も「優しさと思いやり」で処方できるほど世界が単純ならいいなぁとは思う一方で、処方の答えはない、ただ、最適化を求めて臨床的に更新するだけだ。ユートピアの哲学は差別・排除を内包しているという「繊細さ」は詩人にとって特に必要だと思う。
 答えのないあらゆる問題は「おもいやりとやさしさ」で届かない「社会システムの問題」なんだと嫌味を言ってみたい気がするわけです。でもそんな固いことではなく、一過性の流行でもいいから「思いやり」と「やさしさ」が格好のいいファッションとして流通することは否定しない。
http://www.bk1.jp/review/494436

しかし、巣鴨は懐かしい。この動画もアップ。
http://www.youtube.com/watch?v=SRkYnVA9DNo