森村桂/又、ひとり、天国に行ったアリス

毎日新聞の朝刊で“森村桂さん自殺?”っていう不穏な記事が目覚めると、飛び込んだ。真偽のほどは分からないが、又、ひとり、いまだに大きな文脈として、この国の文化の固執ともいうべき“癒し”、“メルヘン”の滴りを絶え間なく発信していたアリスの巫女が消えていったという想いです。享年64歳。ぼくとそんなに違わない。アリスと言えば、自殺した矢川澄子も突然の訃報であった。かって、澁澤龍彦の伴走者でもあった詩人とは、同じ、60年代を駈け抜けたとしても、アリスというゼッケンを背負っても、別のコース、ゲートの住人であったろう。森村桂の代表作でもあり、大ベストセラーになった『天国にいちばん近い島』は暮らしの手帖社を退社後に発表されたもので、1964年と言えば、東京オリンピックが開催された年でぼくは大学生であった。アメリカでは公民権法が成立し、ステューデントパワー、ヒッピー、ボブ・ディランの『風に吹かれて』、コルトレーンローリング・ストーンズと、反体制という旗幟でくくることも可能な時代であったが、街場では“ノンポリ”と揶揄されながら、遊び好きな軟派な若者を大量に生み出し、来る高度成長、バブルの消費を担う布石を打った時代とも言える。石津謙介のアイビールックにぼくも影響されました。この年、『平凡パンチ』が創刊される。そんな背景の中で、若い女性が単身、南の島、ニューカレドアに向かい、『天国にいちばん近い島』が書かれたのです。映画にもなり、主演した原田知世は、そのまんまのキャラで、今もCMで活躍していますね。85年、軽井沢に住み、「アリスの丘」を開店。手作りケーキに精を出す。絵も描き、毎年個展も開いてみたいだし、幅広く活躍していたが、97年ごろから、体調を崩し、入退院を繰り返していたらしい。本当に天国に行ってしまったのです。合掌。