澁澤龍彦/書斎のエロチシズム

「玩物喪志」って言葉がある。でも、それを徹底すると、喪志を突き抜けて別の世界に行くことが出来る、出来た人ではないかという思いが澁澤さんにはする。澁澤さんは『玩物草紙』という本を上梓しているが、すべての物々を言葉に包んで収集し、ピンで止めて、言葉の王国を編む。麦藁帽をかぶって、飽くことなく追いかける虫取り網少年のイノセントが澁澤龍彦の厖大な本というより「言葉の函」と形容するに相応しい書物群を生んだと思う。“玩物少年”なのです。彼はサド裁判の澁澤、澁澤栄一一族のお坊っちゃんと言われても、マニアックなファンに支えられたマイナーな存在であった。それが、高山宏の言によれば、名著『夢の宇宙誌』で読書界の寵児にしたという。博覧強記の彼は、その知の断片を嬉々として組み合わせ、見事な引用の織物を編む手際に澁澤龍彦の真骨頂があるだろう。異端という顕微鏡で、地球の裏側を、天体望遠鏡で宇宙を、彼の好奇心は倦むことを知らず、澁澤ワールドに浸かると中々病が感染して、抜け出るのが困難になるかもしれない。太陽の特集澁澤龍彦なんかで、彼の書斎を拝見すると、四谷シモンベルメールの人形とか、得たいのしれない玩物が本と同じ顔で、謎めいてエロチックな空間を形作っている。その牢名主と言ってもいい、王国の王子とも言ってもいい主人は時として、着流しで、鎌倉の由比ヶ浜を“アリス詩人”であった矢川澄子と散策する。永遠の少女は70歳を超えて自殺した。ただ、救いは喉頭癌で亡くなった「永遠の少年澁澤あんちゃん」を看取ったということでしょう。京都にアスタルテ書房という古本屋がある。マンションの一室で、履物を脱いで上がる書斎そのもののインテリアの店内ですが、澁澤龍彦の本が沢山、陳列されています。京都三条のこの店を覗くと澁澤ワールドの一端を感じることが出来るでしょう。「諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽」⇒♪『松岡正剛“千夜千冊”うつろ舟』