風と火と水の旅人「恥が燃えて少年の頬薔薇匂う」

ぴぴさんの図書館に寄って、雑誌、本を持参、雑誌は『風の旅人』のバックナンバー二冊ですが、贅沢な写真(森山大道 星野道夫 広河隆一など)と執筆者達(白川静 養老孟司 保坂和志 川本三郎 池澤夏樹 茂木健一郎 など)で、編集長は佐伯剛です。何故、この雑誌を持っていたかと言えば、梅田のガーデンシネマで、マイケル・ムーアの『華氏911』、柳楽優弥君の『誰も知らない』を鑑賞したとき、両日とも、ロビーに映画のパンフと同じようにテーブルに置いて、ご自由にお持ちくださいとある。それで貰ってきたのですが、驚きました。僕が今まで、見た、読んだ雑誌の中で、ベストテンに入ることは間違いないグレードの高いグラフィク雑誌です。本体価格が1143円で安い。この『風の旅人』は通常、本屋さんで見つけるのは難しいかもしれません。ぼくが頂戴したのは、五号の『都市という新しい自然』、六号『生命の星』です。ユーラシア旅行社さん、ありがとうございました。というわけで、図書館に届けたのです。そうそう、この本文のテキストのバックを保坂和志さんのHPでも保坂さんのものに限ってアップされていますので、ロム出来ます。
それから、中之島の薔薇園に行って、通りすがりに買った弁当を食べました。良い天気で薔薇の香りもきつかったです。リュックに古井由吉の『野川』がありました。

二階の瓦に鬼火のような炎がいくつも散って、すでに内に火が入ったらしく障子が薄赤く染まり、庇の下から白い煙をゆっくりと吐く家を、私は一度見あげたきり後も振り返らず走ったが、壕の蓋に土をかぶせるために子供たちを外で待たせてひと足踏み留まった母親はいよいよ走る間際に、玄関の路と庭の境の、垣根に沿って植えた薔薇が一斉に先端から炎を吹いて、その火が横へつながって流れたのを見つめてしまったようで、避難者の群れに混じった後で、綺麗だった、とようやく気落ちした声で話した。荘厳だった、ともしもそんな言葉を持ち合わせていたらの話だが、私も炎上寸前の家の姿をそう伝えたかもしれない。どちらも、恐怖の恍惚のようなものだ。生涯の光景というものは恐怖の極でこそ結ばれる。しかしその底に恥の念がふくまれていた。屈辱や恥辱ばかりでなく、現実に起こった事の前で子供ながら不明を恥じるような心だった。―古井由吉著『野川』p215~6―