7/9記より転載

ドストエフスキー著『二重人格』を二葉亭四迷の『浮雲』に引き続いて読みました。後藤明生によれば、『浮雲』は日本近代文学史上の源流にあたる重要な作品であるが、このドストエフスキーの『二重人格』を「真似」て「稽古」した「和魂洋才」の作品として評価している。(参照:kingさんのレビュー)
 1846年1月、ドストエフスキー著『貧しき人々』が発表された。刊行に先立って、この作品はロシア文学史上ドストエフスキーの名とともに、確固たる明星として喧伝されていた。この小説はゴーゴリの『外套』の影響を受けたものとされる。ロシア文学は「われわれはすべてゴーゴリの『外套』から出た」(ドストエフスキー)のであり、その分流が二葉亭を媒体にして、日本近代文学の潮流を形成したというのが、文学史上の通説であろう。そんな文学史上の事件と言っていい『貧しき人々』の次作として、この『二重人格』が発表されたのです。しかし、本書の世評は芳しくなかった。あれほど、『貧しき人々』を熱い賞賛で火を点けた批評家ベリンスキーは世評に反駁して「これは冗長さでなくて、あまりの豊穣さと名づくべきものである」と、一応の収まりをつける。テーマーも筋もゴーゴリの『狂人日記』を踏襲しているらしいが、これも未読である。結構、ロシア文学の古典が未読であることを発見して恥じ入るばかりである。

インタープレイの相手を「自分」に求めてプレイする『自己との対話』アルバムはいわば、ビル・エヴァンスの二重人格多重録音ジャズと言っていい。》