桜桃の味、きみの鳥はうたえる

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桜桃の味 [DVD]海炭市叙景
90年10月10日、一人の作家が自殺した。佐藤泰志、享年41歳。『海炭市叙景』(集英社)は未完であるけれど、冬から春、夏の予感を目の前にしての謎の自裁であった。ちょうど、Nさんからアッバス・キアロスタミ監督『桜桃の味』を奨められて、今、見終わったのですが、昨日、佐藤泰志の本を読み、奇妙に共鳴し合った余韻に、暫しことばが出ません。佐藤泰志の本書は元旦、港を一望できる小さな山に兄妹が初日の出を拝むために登る。お金が足らず、妹はひとりロープウェイで下山するが、兄は雪道を歩いて降りる。しかし、兄は遭難する。そんな悲劇から物語が進行するが、様々の人々が登場する。海炭市が主人公なのです。元旦から夏休みの初めといっても北にあっては春まで、ゆっくりとエピソードが織り成される。かって芥川賞候補に五回ノミネートされながら、『もうひとつの朝』の再発表をめぐって、事実上文藝ジャーナリズムから干された状況の中で、本作品は彼の再生を、新しい局面を開くものであったのです。年末に佐藤泰志と縁のある人から佐藤泰志追悼集『きみの鳥はうたえる』を贈呈されたのです。それがきっかけで、『海炭市叙景』を読んだのです。目の前に桜桃の時期が迫っていたのに、何故、彼は穴に入り込み目覚めなかったのか、残念でならない。彼にとって小説が桜桃であったはずだ。キアロスタミにとって映画がそうであったがごとく…。小説は素晴しいものです。やがて、生が横溢する予感に満ちていた。でもそんな読解は予断に満ちたものであろうか、ただ、言えることは佐藤泰志に『桜桃の味』を味わって欲しかった。最後の章に登場する首都からやってきた海炭市の別荘に夏休みを過ごす大学生はジム・ジャームッシュの映画を観に行く。まだ、『桜桃の時』ではなかったのか?作家はキアロスタミに会うには、あまりにも早くこの世を去った。何故?そんな疑問が残ります。

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桜桃の味@ピピのシネマな日々