目覚め

アレハンドロ・アメナーバル監督の『海を飛ぶ夢』を観ました。スペインを代表する監督で、ハリウッド・デビュー作『アザーズ』で世界の巨匠の仲間入りをしたと言われていますが、彼の映画は初体験でした。『蝶の舌』は観ていますが、この映画では音楽を担当したのですね。多彩な人です。『海を飛ぶ夢』は脚本、音楽も担当しています。本当にいい映画でした。他の『アザーズ』は勿論、『オープン・ユア・アイズ』、『バニラ・スイカ』も観たくなりました。
平日の割には結構、観客数は多かったです。でも九割方ご婦人です。オヤジは少なかったです。めったにパンフを買わないのに買ってしまった。文句なくオススメです。重いテーマなのに、軽やかな気分になりました。そんな実感を持つのは、誤解されたり、死が身近になる心地がして、それなりに問題を抱え込み、危険だと思うが、「尊厳死」は一刀両断に出来ませんね。個々の実存の場で、振る舞うしかないと思う。法案を作成することで、解決できない残余がある。
「よりよい生のため死の選択もありうる」
そんなテーゼが普遍化されると、怖い。
それでも、個々の実存で抜き差しならぬ、「死の選択」を受容する感性もとても大切だと思います。
ただそれは法律問題、宗教問題として記述したり、語ると、死が法律用語、宗教用語になってしまう。
この映画で主人公ラモンは「死」そのものに対峙した「尊厳死」を生きたと、観客に力強く説得させるメッセージがある。
そのメッセージにいかように応答するか、観る側に緊張感を強いるが、観終わって軽やかな解放感があったのは、不思議と言えば不思議だ。
ラモンにとって死は至福だったんだと、「生きる義務」から自由になったんだと、そんな飛翔を僕は納得していたのです。キアロスタミの映画『桜桃の味』は「生きる歓び」でした。目覚めでした。ラモンにとって死が新たな目覚めなのか…。