出版物より新聞、マスコミ

 再販問題について前日よりエントリーしましたが、 leleleさんも親記事を立ててくれました。何か付け火が拡がりそうな予感がするので、新たに『再販問題』というカテゴリーを追記してアタマの整理をしようと思います。
 leleleさんが書いているように現役の出版人もコメントしてくれたらより深みのある議論が出来ると書いていますが、僕は現役の取次人、せめて元取次人の意見が訊きたいものです。というのは再版維持制度が外されるともっとも困るのは取次だと思うからです。今の制度でも出版社サイドで自由価格の設定は出来る。でも、そのような自由価格本があまり店頭を賑わせていないのが実情です。偶に新刊本屋さんで半額セールなんても見かけますがこれが自由価格本です。僕はまだ一冊も買ったことがありませんが、いかにも古本然として色あせた本が多いですね。半額と言えばブックオフのような新中古書店の棚です。こちらは新刊と見分けのつかない美本です。コンテンツを問わなければ、新中古書店の方が「買いたい気持ち」にさせます。
 もし、新刊書店での自由価格本が新中古書店に勝てるとしたら、新中古書店の棚に無いようなアイテムを陳列するしかない。意外と評判がよく僕も購入したことがある色あせた本でも在庫稀少本ですね。こちらは勿論定価通り、でも割安感があります。というのはかような在庫稀少本は市場価格が正価より高いこともありうるわけです。セドリの対象になるわけです。かって、新中古書店の百円コーナーはセドリの宝庫でした。今では彼らも学習して美味しい本が少なくなりましたが、ネット・オークションなので個人で気軽に「古本屋さんごっこ」が出来る時代では、一冊の本をめぐって代替のきかない「本らしい本」であればあるほど、本として価値を減ずることなく生きつづけると思います。
 僕は出版業界にあっては再版維持制度があろうがなかろうが、実体経済の波をもろにかぶって読者のひとりとして上手に立ち回れば様々な価格で本を購入出来る。僕はそれより再販維持制度を外すことのメリットは新聞だと思うのです。本丸は新聞なんです。元新聞人の中馬清福『新聞は生き残れるか』で再版維持制度のことを取り上げましたが、全国紙でこの再販問題をマットウに取り上げた記事を読んだ記憶があまりありません。郵政民営化は大々的に報道しましたが規制緩和の一貫として新聞の再販維持撤退を報道する記事にお目にかからない。楽天×TBS、ライブドア×フジテレビの問題もそのような線上にあるにもかかわらず、新聞紙上においては再販問題はタブー視されているように思える。
 要するに再販維持制度が撤廃されても出版物に関してはあまりメリットはないかもしれない。でも新聞にあっては多大なメリットがあるのではないか、そんな思考実験をしたいと思うのです。再販維持制度が撤廃されれば、記事内容で勝負せざるを得ない。成程、「悪貨は良貨を駆逐する」との大義名分で、「新聞人としての良心」を振りかざして「ホリエモン」のような輩の暗躍を許してしまうと抗弁するかもしれない。もし、そうなら「新聞人の良心」として再販維持制度を真正面から紙上で取り上げた欲しいものです。こういう話題はネットでなくマスコミで取り上げる姿勢こそが大事なのです。
 風の旅人の佐伯さんが昨日放映されたNHK番組「日本のこれから 知っていますか?若者たちのこと」について批評していますが、僕自身も最初見ていたのですが、あまりにも内容のないやりとりに最後まで見ることが出来ませんでした。泉谷しげるが時々マットウなことを言っていましたが…。

 はっきり言って、こんなことやっても何にもならない。社会全体がどうのこうのではなく、若者も大人も、各個人がそれぞれの現場で毎日を生きている。大人と若者という一般論の話しではなく、企業の現場だと、先輩と後輩もしくは上司と部下。家庭のなかだと、親と子。すなわち、人間対人間。社会全体の心配をする前に、まず自分の現場でどうすべきかということが先決。社会を心配するふりをするテレビ局などは、高い平均賃金を2,30%削減して、その分、多くの若者を採用する気があればいいのだけど、そんなこと考えてもいないだろう。取材してVTRを作った無職の若者たちだけでもまず採用すればいいのだけど、結局は、自分のところこそが中卒とかドロップアウトを書類選考で落としてしまうのではないか。
 自分を除く“社会”に「しっかり対応しろよ!」ということは誰にも簡単に言える。
 採用する人を厳しく人選して、多くの人を切り捨てるしかない体質を自分のところが抱えているのならば、「こういう状況は問題です」という深刻面をした番組をつくるのではなく、「こういう状況のなかでも、なんとか工夫したり努力して切り抜けている人もたくさんいるんです。だからみんなも勇気をもって頑張ろうよ」という番組を作った方が、まだ正直だという気がする。楽観的すぎるかもしれないが、そういうやり方で自分も頑張ろうと思う人が出る可能性は、たとえ僅かでもあると思うが、「社会的に対応していかなければならない」という番組を見て、採用方法を変えようとする企業が現れる可能性はとても低いのだから。

 どうです、佐伯さんは当たり前のことを言っているでしょう。何故、NHKなり新聞などのマスコミがかような自分自身にも跳ね返るような報道が出来ないのか、そうであるなら、様々なノイズの侵入を許すことになるかもしれないが、怠惰であることを許してしまう記者クラブ制度、再販維持制度を撤廃の方向に持っていくしか方途がないではないか、
 追記:しかし、こんな大文字問題はブログであまり書きたくないのが本音です。読書の話、映画の話、日常雑記などを書きたいのですが、肝心のマスコミが自分に都合の悪い大文字問題は回避する体質みたいなので、背伸びして、身の丈にあわないカテゴリーをアップしてみました。