金太飴にはうんざりなのです。

 黒猫房主さんに出版流通協議会による『行政改革委員会規制緩和小委員会、規制緩和に関する「論点公開」の「規制緩和意見」に反論する』(1996年10月31日)の報告書を読むように言われ荒読したら、逆にだから再版維持制度は廃止し方がいいんだと逆説得されました。皮肉と言えば皮肉ですが、この報告書の理論構成では結論を再販廃止の方向性にたやすく変換できますね。
その例文として二箇所だけここに引用アップしました。

また、現在でも取引条件が優遇されている大書店やコンビニが、再販廃止後、目玉商品として売れ筋の大量ディスカウントを始めた場合、中小の書店は価格競争にはたちうちできず、客離れが起こるだろう。

 そういう状況になれば、中小書店は価格競争によるみんなと同じ金太郎飴の本屋さんからおさばらしなければ、生き残れなくなるだろう。店主の自主仕入れの目で棚作りしないと閑古鳥が鳴くだろう。むしろそういう状況こそ読者の一人としては大歓迎なのです。そのことによって、推理小説に特異な新刊書店、人文書専門店、児童絵本専門店、MANGA専門店、文藝・詩専門店、科学専門店、兎に角、金太郎飴書店には、もうウンザリしているのです。安売り合戦という土俵の上で商売をしようとするから、再販維持制度が撤退されたら困ると思うのです。いいではないですか、やらせば良い。そんな位相とは違うところで、棚作りする職人の書店人が再販維持制度が撤退されれば一人でも増えるのです。僕の住む街にヴィレッジヴァンガードが出店しました。かようなセレクトショップが一店でも増える環境の一つとして再販維持制度が阻害要因ではないかと思うのです。自主仕入れによる棚でお客様を誘引する。それが基本中の基本です。出版流通対策協議会のこの作文は、「だからこそ、再販維持制度を撤廃しなければならない」と逆に自信を持って言えるようになりました。

「品揃えのバラエティ」については、再販制廃止により、専門店化が進むという論拠は全くない。逆に返品可能商品による専門書の棚揃えは現在の方が出来やすい。

 確かに日々新刊点数が200点を超え、委託制度による返品可能の担保で気のすむまで店頭陳列可能のシステムを作りあげたのは再販維持制度様々かもしれないが、でも実際、専門店化が進んでいるのか、セレクトショップが増えたか、金太郎飴ばかりではないか、例えば僕の街の本屋さんでは四店舗とも双風舎の『限界の思考』を一冊も置いていない。100坪の書店でもですよ。ネット書店でベストテンに入っているのに…。
 論拠が全くないというのは当たり前です。半世紀も再販制廃止をした出版流通史がないのですから、でも、それ以前、戦前、大正、明治、江戸時代では新刊書店、古書店も境界が不分明で少なくともセレクトショップであったでしょう。この半世紀は大取次の出店として金太郎飴書店が構築された出版流通史ではなかったか、もうそろそろ、大取次にオンブに抱っこはやめにしたら如何ですか、再販維持制度はおしゃぶりです。
 僕が現役書店員の頃、一番嫌いだったのは常備委託でした。一年間も出版社から預かりで、そんな委託商品で棚が埋まると思い切った仕入れが出来ない。勿論、書店員サイドでセレクトして正味が変わらなければ返品条件付きは大歓迎。本屋、取次、版元と三位一体でセレクトした書店ごと違う委託セットは中々やられていないでしょう。精々やるとしたら取次・版元主動の○○フェアでしょう。そんなんでは他店との差別化が図れない。僕は逆に論拠があっても専門店化が遅々として進まないなら、論拠がないから専門店化が進むかもしれない。過去のデータがないので予測ですが、再販制廃止により専門店化がやりやすいというよりそれしか中小の書店は生き残る道がないと思う。鍛えられて下さい。仕事が楽しくなりますよ。安売り合戦も取次お仕着せによるビジネスは、どちらも面白くないですよ。