新世界、カエローよ…

 石井克人監督の映画もこれまで見たことがないどころか、テレビドラマも見ていないので多分コメントする資格はないでしょう。CM作品は気がつかないで見ているでしょう。何かず〜と戸惑いながら140数分経過した感じ。絵葉書のような、そのものっていう綺麗綺麗な映像で、わざと決まりきった美しい日本の里山を切り取った「出来過ぎだなぁ」と退屈な時を過ごしました。様々なCGだとか、アニメ、映像つくりの玄人好みのスキルが駆使されているのでしょうが、この映画を鑑賞するための最低限度のコミックなりアニメ映像文化の了解事項が欠けているので、多分パロディ部分も鑑賞出来ませんでした。
 我修院達也も知らなかったし、実名で登場する轟一騎も知りませんでした。田園風景で縁側のある平屋の農家風情の一軒屋が舞台なんですが、陽だまりの中でお茶を啜るおじいちゃん、おかあさん、おじさん、おとうさんはそれぞれ、時代の最先端をゆくお仕事でお百姓さんではありません。もっとも飛んでシュールなのは元伝説のアニメーターのおじいちゃんで、孫のおにいちゃん、妹もそれぞれ自分自身で解決しなければならい宿題を抱えている。おじいちゃんの指導でアニメーターの復帰を図るおかあさんも何の変哲もない茶の間で何やら家事の合間に作業をしていたのですが、それがアニメの原稿だったんですね。
 この映画の可笑し味は里山であるんだけれど、アーティストや暴走族ややくざやコスプレしたヘンな人が突如現れる。まあ、おじさん役の実名、お仕事そのまんま(アニメーター)の轟一騎は都会で仕事をしている。ミュージック・ミキサーを生業にしているもう一人のおじさん浅野忠信はこの里山に休暇で帰っている想定みたい。
 そして、みんなそれぞれ小さな悩みと言うか不安を抱え込んでおり、それぞれが適当な距離感で支えあっている。妹はやっと逆上がりが出来るようになって大きな自分が登場する妄想から放たれる、おにいちゃんは好きになってしまった同級生と友情をしっかりと獲得する。おかあさんはアニメーターの復帰を果たす。おじいちゃんは死んでしまったけれど、家族のそれぞれに素敵な手描の動くアルバムを残す。この映画最大の感動の場面です。
 夕焼け、何か、遊びは終わったよ、夕餉の支度の匂いにつられて「帰ろう…」「ドボルザークの新世界」ですね。ゆっくりと日が沈む。三分間の仕様ですが、『山よ』っていうDVDも発売されていますね。僕よりうんと若い人にとってはこの映画は面白いかも知れない。好意的な映画評があります。こちらを参照した方がいいでしょうね。
茶の味@ピピのシネマな日々