希望の萌芽

 ウラゲツさんが2005年下半期を総括して本のメルマガ(235号)に寄稿したエッセイを読ませてもらいました。

希望を棄ててはいけない。絶望は底なし沼のように人生を蝕むから。暗い時代においては希望の内的質が問われる。その質を問い直すための作業として、私は因果なことに出版業を選んでしまった。出版業の本質は文化戦争を暴き、それに対抗することにある。しかしこの戦争は目には見えない。

 久し振りに直截に「希望」という言葉を聴きました。新鮮に聴こえます。僕の若い知人たちにかって言われたことがあります。「葉っぱさんの若い時代には絶望があったんでしょう。だから希望もあった、僕らには希望とか絶望は死語です」って。それでも生きる、生き抜くという主意的な強いものがあれば、僕はそれなりに頭を垂れる。かって宮台真司が援交少女達を評価したのはそのような文脈であったろう。「まったり日常」に耐えられる、耐えて見せるという決断、でもそんな強いものはありはしなかった。メンヘラを生み出し、癒しのアジールが消費される事態になったのではないか、
 たったこの間(私の青年時代)までは、武田徹オンライン日記(12/23)で言うようこの国では人口爆発が恐怖の対象だった。それが今年、人口が自然減となったのです。少子高齢化社会は当然予測できる事態でそれ相応の行政はやっているはずだし、やらなくてはならないものでしょう。過去にこんな本を紹介していましたね。少子高齢化社会へのエントリーでした。証券会社の人が書いた本ですが明確な見取り図があります。肯定するにも、批判するにも叩き台として検証しやすい。この著者のセミナーで彼は世界の市場マーケットは中国、インドなど、結局、需要は拡大して物不足になるという。それで、ジム・ロジャースの『商品の時代』を取り上げて、株は終わった、物の時代だと、簡便に言えばそういうことでしょう。そういう視点から見れば、ウラゲツさんが取り上げている『ピーク・オイル――石油争乱と21世紀経済の行方』リンダ・マクウェイグ著、益岡賢訳作品社に関するコメントは凄く説得力があり興味をそそる。
 ウラゲツさんも取り上げているアントニオ・ネグリマイケル・ハート共著『マルチチュード』の邦訳監修者の市川良彦氏が毎日新聞の12/28の夕刊で「マルチチュードとはヨーロッパ中世の言葉で『自国民かよそ者か何の職業かも分からない、とらえどころのない連中』といった意味です」と、インタビュー記事が掲載されている。例証としてフランスの暴動をあげている。フランス共和国の理念では誰もが平等のはずなのに暴動の当事者はフランス国籍なのに移民と呼ばれ、ある意味でフランス人扱いされてこなかった。むろん外国人でもない、彼らは共和国の根本理念が何を見えなくさせているかを見せた、という点でマルチチュード的なのですと、そして日本でのマルチチュード出現の兆候は、自殺者の増加かもしれないと市川氏は語る。

 マルチチュードが帝国の権力構造に抗して「絶対的民主主義」を生み出すというのが本書の結論だ。ただし、これは未来の完成された制度や体制ではなく、社会問題が動く瞬間に現れ出るものだという。つまり「いったん今の社会の根本にある合意を問題にしなくては、どんな新たな制度も作れないという考え方のことです」。言い方を変えれば、既存の社会が位置付けられない人々が、だからこそ社会を根本から問題化でき、その結果、その結果、彼ら自身がその社会の中で何らかの位置を占めるという過程を指す。
 マルチチュードは、帝国を前提にした「仮説の仮説」でしかない。だが、著者はこの仮説に極めて楽観的だ。その楽観主義にこそ本書の意義があるという。

 少なくともここに希望を託すものがある。ニート、引きこもり、フリータに対する風当たりも強い、だけれども、だからこそ、彼らがマルチチュードとして「絶対的民主主義」を生み出す力となり得る。そういうことなのだろうか、
ウラゲツさんはこんな風に本書を紹介している。

 「より大きなものたち」を延命させるこんにちの「グローバル権力」に抵抗しゆく人々の、連帯可能性としてのマルチチュード。本書の第一章は次の言葉から始まっている、「世界はふたたび戦争状態にある」。先述した「文化戦争」の日常は、本書が明るみに出す当のものでもあるだろう。

 そしてこれらの本を経営書、自己啓発書の棚、平台に『ミッキーマウスのプロレタリア宣言』を含めて陳列したらと提案している。だからせめてご要望に応えてネット陳列してみます。
マルチチュード 上 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)マルチチュード 下 ~<帝国>時代の戦争と民主主義 (NHKブックス)<帝国> グローバル化の世界秩序とマルチチュードの可能性非対称化する世界ー『<帝国>』の射程ー大投資家ジム・ロジャーズが語る商品の時代ピーク・オイル -石油争乱と21世紀経済の行方-ミッキーマウスのプロレタリア宣言下流社会 新たな階層集団の出現 (光文社新書)経済学という教養人口減少時代の資産形成