横流しルートの膿

◆ウラゲツさんが新文化経由で『運送業者の間引き横流し事件』を報じています。売り捌いた「大手新中古書店高田馬場店」は東京在住のおりは会員になっていた店で、100円で結構な掘り出し物をみつけた記憶があります。通常、古本屋は立て場の廃品回収業者ともルートがあって、運転手はちょいとした小遣い稼ぎになるのです。
 しかし、まさか、新刊書店と大取次のルートを走行する定期便がそのようなことをやってしまうとは、いささかショックです。大取次出入りの運送会社は傍系会社で実体は親会社と殆ど変わらない、所ジョージの番組でしたか、「吹奏楽の甲子園」を目指す高校生達が部活で顧問の教師が部員達のだらしなさを指摘して「爪楊枝一本で学校は崩壊する」と怒っていましたが、株を上場しない内向きにがっしりと閉ざされた売り上げが一兆円近い規模の大組織でも「爪楊枝一本の穴」でもとんでもない流れになってしまう。
 ご多分に漏れず、アマゾンにしろ日本の取次の流通倉庫は実体はアルバイトの人材派遣会社経由の協力社員で稼働している。恐らく全従業員(働いている人)の正社員は30%どころではない、版元、本屋を含めた出版流通業界の正社員率は限りなく一桁に近い数値に移行しているのではないか、三人に一人が非正規雇用者でなくて二人に一人ぐらいではないかという実感がありますが、そのような年度統計があるのでしょうか、
 今回の問題はそのような非正規雇用の問題ではないが、遠因としてあると思う。実は僕も大取次で数時間のアルバイトを継続したやったことがありますが、十人ぐらいでチームを組んでコミックセットを書店に配送する作業(2500書店)をしたことがあります。ほとんど、お任せです。一応責任の所在を明確にするために社員は一人つきますけれど、彼にとって他の仕事の一つに過ぎないから、作業はお任せになるのです。それに社員の残業規制は厳しいですから、それでも、社員達はサービス残業をする。役付き手当をつけて管理職ということで合法的に残業手当を払わないようにする。アルバイトの目から見ると、上司から怒鳴られ、こき使われながら働く社員達を見ると、社員なんかにはなりたいなんて気が失せます。(ホント?)
 それでも、そのような部下を怒る上司にとってもアルバイト(協力社員)はある種、お客さんだから、「〜さん」と丁寧に応対するわけです。最初信じられなかったのですが、コミックセットは春夏秋冬、新年と年五回出荷して、ワンコースの作業が完了する度にアルバイトの僕たちは「ご苦労様です」と上座に座らされて宴会接待されましたね、僕達は大組織にとって、身内でなくお客様だったのです。敬して遠ざける。
◆うらげつさんが氷山の一角でないかと書いていますが「無伝返品」合理化による穴を利用した犯行の一面もあるが、大取次の返品倉庫の管理体制もあると思う。僕のいたところは新刊・注文の配送センターで在庫管理は結構厳しくやっていたが、返品倉庫で働いていた友人の話を聞くと、「返品されたものは商品ではないのではないか」という疑念を持っていたことが判ります。というのは本屋から返品された商品が梱包のままで長い間放置される状況があるのです。返品伝票は抜いても現物の整理は後回しになる、そんな状態で「返品された本は結局廃棄処分されるんだ」という誤解が生まれる素地が出来る。
 僕はそこで、そうではなくて、「返品されたものは版元に戻り活用されて、又商品として本屋の店頭に並ぶ」という流通経路を説明しましたが、なかなかナットクしてくれません、というのは返品された本を何度も同じ定価で出荷して店頭販売している情報を読者に広く伝えたくないという事情があるのでしょう。よく返品率が50%以上とか言いますが、実際に廃棄処分されるのは100冊につき一冊でしょう。返品された汚れを落としたり、断裁の刃で嘗めたりして美本にしたり、余分に保管している表紙、帯をかけて新品同然にしたり色々と工夫をするわけです。
 新刊倉庫でも横流し事件はありますが、返品倉庫の場合、この運転手の場合は返品されたものを経費をかけないで「リサイクル」してやってんだという、都合の良い解釈で罪の意識を軽減させたと思います。そうならば、いつも同じ運転手、同じ車で新中古書店の大手が「オカシイ」と思わなかったのか、通常の古本屋のオヤジは廃品回収業者ともつき合いがあるから、そんな鋭敏なアンテナをもっているけれど、マニュアル通りに対応する、そこの高田馬場店のアルバイトも含んだ社員は何にも感じなかったと思う。そういう体質だからこそ、ここまで大きくなったのでしょう。(ホント?)
◆ウラゲツさんが発売前の新刊が何故新中古書店に並んでくるのかと疑念を書いているが、製本所から流れることがあるでしょうね、専門書のような上製本は製本所でも一冊一冊を細かくチェックしている。しかし、特にコミックのような量産する商品に関してはどうしても実際よりは余裕を持って製品化される。伝票上の問題もあって実数だけ出荷する。余った商品は取りあえず現場に保管する。でもそれは伝票上に記帳されていないから、社員の判断で処理することがある。そのような爪楊枝が現場に落ちていた隙が、まわりまわって、ウラゲツさんの疑念を産む一因にもなっているのではないか、献本だけの問題ではないのです。
 業界全体の商慣習あるのです。僕は製本所でもアルバイトをしたことがあります。ここでも、やはり、お任せでしたね、特に深夜作業の時は全員アルバイトです。トラブルがあったときは困りますね、過去ブログでも書いているのでここに繰り返さないですが、「食中毒事件」です。しかし、一つの職場で結構長い間アルバイトをしたことになりますね、それは、多分、自由にやらせてくれたからでしょう。不思議と言えば不思議です。この大手の製本会社も僕は現場の仕事をしているのに、人事担当の課長から声をかけられ、選挙運動の仕事をしてくれないかと頼まれまたことがありました。とてもいいカネでしたが断りました。営業の担当係長が頭で動いたらしいですが、議員は当選を果たしたものの、係長は選挙法違反で逮捕されました。それで、とうとう会社を辞めざるを得なくなった。ホント〜に社員は大変だと思いました。続く…、