忘れる社会で『それでもボクはやっていない』

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オンライン日記・マラソンと蝸牛で、武田さんの箴言を引用。

何かあったときは社会的生命を失わせるまで「殺す」。しかしあっという間に忘れる。そう考えると今の社会は「殺し」「忘れる」社会だ。不祥事の当事者を「裁き」「許す」社会ではない。
ちなみに「殺し」「許す」や「裁き」「忘れる」というような交叉はない。「許す」ことは「裁く」ことの一環だし、「忘れる」社会だからこそ酷薄に「殺せる」ような気がする。

 咋日、周防正行監督の『それでもボクはやっていない』を見ました。結局、真実を明らかにするということは神の視点を裁判官に仮託してしまう。神の正義と法の正義はしばしばズレるとの想定のもとに、それでも、法の正義を(最適化として)了解して暮らしてゆくしかない。それに替わるべき拠り所がないからだ。だからこそ、真実を保留してでも護持されなくてはならない、肝心なことは「法律の適正な手続き」でしょう。
デュープロセスが社会通念として、稼働していない世の中で生きることは安心・安全が最も脅かされる社会であると、改めて感じ入りました。確かに真実はあるでしょう。でもそれは被告の手の内にある。神の手のうちにある。「沈黙」の中にある。
 裁判官も検索官も警察も弁護士も傍聴人も外から憶測でアクセスするしかない。結局、最後の裁き手は被告自身であろう。神の沈黙であろう。
 「それでもボクはやっていない」なら、例え有罪の判決が下っても、被告の「ボク」は裁判官を有罪と裁いていい。神によって裁かれる。裁判官が裁かれる。でも、それは狭い意味での「法の世界」ではない。問題はデュープロセスの土俵内での正義、真実であって、そのフレームから逸脱したものは例え法曹人と言えど、「ボク」から裁かれる。「神」から裁かれる。
 このあたりのことを具体的に書くとネタバレになるので、やめますが、談合、示談って、武田さんの言葉で言えば、「忘れる」社会が前提にあるのでしょう。「ボク」の思いは「裁いて」欲しいというものであったはずだ。ナットクのゆく適正な法手続きがなされていれば、仮にそれによって冤罪が生じても、被告は慟哭の思いで裁判官を「許す」こともあり得る。もし、「ボク」がやっていて無罪になっても、それが適正な法手続きによるものなら、その誤謬は冤罪を防止するための大きな社会的資産になるはずだ。そして「ボク」は「内在規範」としての法によって裁かれると信じるしかない。
 そのような法だからこそ、国家をも裁くことが出来る。
 大昔、僕自身、万引きの事後強盗事件にかかわり、そのことをこちらにエントリーアップしましたが、結局、送検が見送られたのです。この映画を見て、もし、あの時、突っぱねて、現行犯による私人逮捕だと言い張れば書類送検され裁判になったかもしれない。有罪率97%の高さは起訴する前に篩にかけているのでしょうかね。僕のあの事件の場合、果たしてあれでよかったかどうか疑問がありますね、
 少なくとも「許す」の感情が被告に対して生まれていない。検察室で、被告と対面させてもらえなかったですからね、結局、被告のことは何にもわからなかった。被告の父親が謝りに来ただけです。そして、まさしく彼のことを忘れたわけです。 いや、彼がとうに僕のことを忘れたと思う。そんな感じがしますね。許すも何も、裁きの場が回避されたのです。関係性が消されたわけです。
 でもあの判断は僕なりに最適だったと思う。どうしてかと問われれば返答に困りますけれどね。色々な回答はあります。でもどれも、僕の真意とは違うということだけは、わかります。
 ある意味で裁判官って、凄い職業だと思う。ベンディングで逃げるわけにはいかない、結論を出さなくてはいけないのです。
 この映画によって、果たして「ボクはやっていないかどうか」、僕は何とも言えません。周防監督のこの映画は見る側が、様々な文脈で見ることを許す映画です。当然、続編が創られるべき映画です。控訴!
 映画で傍聴マニア達が出て来ましたが、僕はマニアではないけれど、傍聴って結構面白いものです。bk1にそのような本に関するレビューを書いたことがありますね。
 平成21年度から裁判員制度が実施されますね、サクラ動員問題で話題になった経緯が端的に表れているように、裁判の傍聴なんて関係者でないかぎり関係ないと思っている方が多いと思いますが、一度、傍聴体験をオススメしますよ。今、中学校の授業の中で裁判傍聴の体験学習がなされているのでしょうか、当然なされてしかるべきです。年齢制限はあるのですか?
http://www.saibanin.courts.go.jp/
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/citizen_judge_system/
★:http://masuno.de/blog/2007/01/23/post-23.php