「こうしゃなあかんこと、ないから」

 京都みなみ会館で、河瀬直美監督の『殯の森』をやっと見ました。ファーストシーンから圧倒されました。森の、山の声が聞こえる、死者の声が聞こえる、「した、した」♪
 だからと言って暗い映画ではない、暖かくて、甘美な身体ごとあちらにもっていかれそうな怖さがあるものの、あちらもいいかぁと思ってしまったのです。
 僕は二度、瀬戸内沿岸の村で、葬列に加わったことがある。海を一望する山腹の墓地まで、歩いて行った。村中で死者を悼む慟哭があった。あの風景も蘇って来ました。
この映画は様々な人がコメントしているので、僕が今更の感がありますが、とにかく見て欲しい。実は沢山の情報が耳に入っていたでしょう。中には辛口の批評もありました。そんな耳情報の先入観があったのですが、ファーストシーンで、吹っ飛びましたよ。「生きる実感」って、生と死の「まぐわい」の刻にあるものかもしれない、こちらと、あちらは断絶していやしない。

殯ーもがりー
敬う人の死を惜しみ、
しのぶ時間のこと
また、その場所の意
語源に『喪あがり』
喪があける意、か。
ーカタログよりー

 平日の昼間だったのに、100人は入っていましたね、僕よりご高齢の人が大多数でしたが、こんなにも映画の好きな高齢の方が多いのには驚きました。
 僕はパンフを買う習慣がないのですが、ロビーでめくっていたら、とても素晴らしいカタログなんです。思わず買ってしまった(700円)。
 この映画の音楽も素晴らしい。テーマ音楽録音のために、田原の森に河瀬監督のアップライトピアノが運び込まれ、11歳の少女ピアニスト坂牧春佳の希望で森の中で演奏録音された。鳥の声や風に揺れる木の葉の音との共演になったわけです。撮影(中野英世)、音楽(茂野雅道)、美術(磯見俊裕)で、音と映像を目一杯楽しみましたよ、エンドロールで誰も立ち上がらない。僕が最初でしたね、(どうも近くて堪らなかったのです、ゴメン)。
 そして又、びっくりしたことは、一口二千円のサポーター達です。そしてこの映画パンフに二千人のサポーターの名前が掲載されている。申し込みした方には奈良県下で行われた特別試写会に招待だけではなく、35ミリフィルムのひとコマをプレゼントと、河瀬監督の映画つくりにかけるプロデューサーとしての行動力にも驚きました。
 映画つくりだけではなく「本つくり」にもそんなプロジェクトが起きればいいねぇ、二千人のサポーターが集まれば、本は出版出来るし、、委託制度、再販維持制度に守られなくても、大手を振って出版流通に三顧の礼で乗りますよ。