ミス・ポター

ミス・ポター (竹書房文庫)ピーターラビットとビアトリクス・ポターの世界愛蔵版 ピーターラビット全おはなし集(改訂版) (ピーターラビットの絵本)ピーターラビットの絵本 全24巻 贈り物セット
 2003年でしたか、心斎橋の大丸店でピアトリクス・ポター展がありましたね、愉しんで見たのですが、
 ピーターラビットの隠れファン
なんです。bk1で検索したら『涙を見せない兎が、「魔法の13年」を語る』というタイトルで投稿書評している。懐かしい!
 そんなオヤジだから、映画『ミス・ポター』は当然、見ましたよ。大満足、
 一冊の本が出来上がり、店頭に並ぶまでのシーンもあり、今時、新語のように「キャラ、キャラ」っていうけれど、ピーターラビットは間違いなく、百年前、キャラ立ちして、世界中の子ども達、大人達にもいまだに、愛されているのは間違いない、キャラクター商品もスゴイですよね、
 この映画のもう一つの見所は、イングランド湖水地方での撮影が実現したことでしょう。《ポターが購入して農場を営み、遺言でナショナル・トラストに寄付したこの地は、今もピーターラビットの物語の舞台として知られ、世界中から観光客が訪れる人気スポットである。その他、ロンドン各地、ホーム・カウンティ、マン島、オスタリーハウス、そして観光用に蒸気機関車を走らせるかの有名なブルーベル鉄道でも撮影を敢行、20世紀初頭の美しい風景が見事に再現されている。》とのことです。
 河瀬直美監督の『殯の森』も田原の森がもう一人の主人公であったが、この湖水地方の景観もそうですね。そこから、様々な生き物たちがキャラとして誕生したわけですよ。日本版鳥獣戯画かなぁ、
 ピアトリクス・ポター役のレニー・ゼルウィガーは、その恥じらいと断固たる意志の強さを見事に演じて改めて存在感のある女優だと思いました。

涙腺も声帯も持たないピーター・パイパー(兎)はポターにとって静かな友であった。語らない生き物にポターは想いを託し、「ピーターラビットのおはなし」は生み出されていく。1902年のことである。百年経ったのです。五月の連休にピターラビット展を見に行きました。
 掌の中にすっぽりと、ちっちゃくて、可愛い絵本は世界中の子供のみならず、大人にも愛されましたが、ポター女史は穏和という言葉と縁遠い人だったらしい。彼女が晩年を過ごしたソーリー村の人々に「反対するなら危険だが、愛するなら安全な人」と評され、いかにも、イギリス・ブルジョアの振舞を身につけた「鉄のレディ」に相応しい女王国の女主人であった。
 ポターが生まれた1866年の時世はビクトリア女王時代である。「世界の工場」として富は蓄積され高踏遊民の存在は許されていた。ポター家は綿織物で財をなした典型的な中産階級であり、彼女はビクトリア時代の御嬢様教育を受ける。家庭教師による個人教育であり、学校にも通わず、子供部屋から殆ど外に出ず、同年の友達も居ず、まるで、現代日本の「引きこもり」を想像するが、勿論、そのような日本の病根の表れでなく、ジェントルマンとしての倫理観による淑女教育の表れであった。
 日本では明治維新が始まり、そんなイギリスは近代化への目標であった。 
 ポターは暗号日記を付けていた。007のイギリスはかような伝統があるのであろうか。同時代人、石川啄木はローマー字日記を書いていたが、わが国の文人で暗号日記を書いていた人はいたのであろうか。教えて貰いたいものである。ビクトリア時代にあってはいわば、二重規範を生きざるを得ない淑女達は暗号日記を書くことが珍しくなかったのか。イギリスと暗号について、検索したい気になった。
 この日記解読によると、ポターは「ラファエル前派」のミレイの影響を大きく受けたらしい。彼の「オフィーリア」は日本でも馴染の名画であるが、ポターの父の友人でもあった。少女時代の彼女の絵を「観察力」のある絵と評してくれたらしい。
 彼女の動植物に関する並々ならず観察と博識は郵便配達夫でもある博物学者チャールス・マッキントッシュとの出会い(1892年)と彼の指導の賜である。
 挿絵画家としての影響があったのは父親が原画を所有していたランドルフコールデコットである。彼は「線は少なければ少ないほど、過ちも少ない」と簡潔を好む画家であった。
 かような人々を肥やしにしながら、この絵本は誕生するのである。 
 「魔法の13年」が始まる。小さな生き物の小さな王国の小さな物語が紡ぎ出され、子供達を楽しませるのみならず、自分自身も癒され、大人達をも癒したが、1913年(47歳)に結婚、ヒーリス夫人として農場経営に乗り出す。ポターはピーターラビットから独立し、ピーターラビットもポターから独立して、互いに違った道を歩むのである。彼女は1943年、死去するが、ピーターラビットは生き続けている。
続くーhttp://www.bk1.jp/review/0000213644よりー

 4年前に書いたbk1書評を引用しました。