んんん王子

身近な人が押し花アートをやっており、教室で絵本か童話を作成すると言う。出来上がった押し花作品を印刷にして言葉を添えるのだと思うがどういう装丁になるか全くわからないが、腰軽な僕は、童話を書いてくれないかとの要望に、童話なんて書いたことがないのに、気安く了解して三編を一気に書き上げました。目一杯花が登場すればいいわけで、枠組みの提供というか、中味を改編してもいいよとこんな尻取り童話を書いたのです。花の尻取りだから、自分の好きな花に変えれば良い。前のエントリーに関連ある物語なので、こちらにもアップしました。こういうのはケータイ童話ではなく、ラノベ童話なんでしょうね、「んんん」王子が「キャラ立ち」している。「カラタチの花」かぁ♪

   「んんん」王子
 この国の王子のなまえは「んんん」と呼ばれていました。
 王さまがつけた名前ではありません。
 「んんん」王子がじぶんでつけたのです。
 なぜって、この国で初めて文字をつくったのは、「んんん」王子だったからです。
 それまで、この国では文字がなかったのです。
 王子はこの国のある町の沼から生まれたのです。
 ある日の明け方、いつもよりさわがしく鳥がさえずり、森のけものたちがほえたり、鳴いたりするもんだから、 声をたよりに沼に近づくと、一台の花々にかざれた乳母車が、浮かんでいたのでした。町の人々が引き寄せると、 赤子の王子がねむっていたというわけです。
 あまりのふしぎさに、この国の王さまが大臣に調べさせると、かって、この沼の底に花に埋もれた町の言い伝えがあるということでした。誰もこの沼の底まで行ったことはありません。底なし沼と言われているのです。
 王さまは占い師に「これはいかに」と占いさせました。
 「天から授かったお子でございます」
 王さまとお后さまのあいだにはお子さまがいなかったのです。
 そして、赤子はこの国の王子になりました。
 王さまとお后さまは、王子をとても可愛がりました。王子はとても花が大好きで、王さまは国々の色々なところから珍しい花を取り寄せ、とうとうお城よりも広い花園をつくりました。
 王子がしゃべれるようになったとき、花々に名前をつけはじめました。
 いままでは、「バラ」はバラと声にだすことで王さまをはじめこの国の人々はお話をしていましたが、文字を書くことを誰も知らなかったのです。
 王子が、みがき石に消し炭で文字を書いたのです。
 まず、「あ」は「あじさい」、「い」は「いちょう」、「う」は「うめ」、「め」は「めどはぎ」、「ぎ」は「ぎぼうし」、「し」は「しゃくなげ」、「げ」は「げんのしょうこ」、「こ」は「こすもす」、「す」は「すいかずら」、「ら」は「ライラック」、「く」は「くちなし」、「し」は「しょうぶ」、「ぶ」は「ぶっそうげ」、「げ」は「げっけいじゅ」、「ゆ」は「ゆきのした」、「た」は「たいさんぼく」、「く」は「くず」、「ず」は「ずみ」、「み」は「みつまた」、「た」は「たいま」、「ま」は「マリゴールド」、「ど」は「どくだみ」、「み」は「みもざ」、「ざ」は「ざくろ」、「ろ」は「ローズマリー」、「り」は「りら」、「ら」は「らん」……と、
 王子は石板に書き付けたのでした。
 その時からこの国に文字ができ、様々なことを文字で書けるようになったのでした。
 でも、最後に王子は、「ん」とうなりました。
 「ん」の次の言葉が出なかったのです。
 しりとりでもそうですよね、あんまり、「ん、ん、ん」って言ったもんだから、みんなは王子のことを、「んんん王子」と呼ぶようになったのです。
 王子は花の名前に「ん」で始まる名前をつけなかったのです。
いまだに、この国では「ん」がアタマにつく花の名前がありません。だって、「ん」なら、どこにもつながらない行きどまりになってしまいます。
 「さ」の「さざんか」なら、「か」の「からたち」の花になって、つながってゆくのです。王子は、じぶんの名 前を「んんん」とつけることによって、この世の行きどまりを、自分の中にとどめたのです。
 それからというもの、この国は交易(こうえき)も盛んになり世界中の冨が集まるようになり、栄えていったのです。