狡兎死して走狗烹らる

清陰星雨

清陰星雨

七年前に書いた中井久夫著『清陰星雨 』のbk1の拙レビューですが、本書をリサイクル贈呈本に提供して発送したのですが、書評を書いた記憶があったので、検索したら、以下のようにありました。全文コピペします。(2002/08/14 23:02:00)
しかし、これを読むと、百年に一度の金融危機と耳にタコが出来るほどあちらこちらで言われているが、七年前からそんな予兆があったし、起こるべきして起きたと言えなくもないなぁと改めて思いました。
そんな認識を僕も冷静に持っていたはずなのに、いつの間にか失念していたんだと、状況に流れやすい僕自身の軽さにカツを入れたい気持ちになりました。

襟を正して読むべき本である。ひとりの患者として精神科医中井久夫の前に座ってみたいと、倒錯的な気分になってしまった。しかし、こんな戯言はセンセイの眉を顰めさせることになるだろう。戦時下、こんな小学二年生がいた。「級長は必ず男子で女子はいつも副級長なのは間違っている」。朝礼の直前に交替で級長と副級長をつとめようと少女は主張し、中井少年は「なるほど」と思い、立つ位置を入れ替わった。ふたりは同級生達に囲まれヤジられ罵られ引きずられて、少女がリードした反乱はあっと言う間に終わった。この少女との出会いが「ストロングオピニオン」の人、中井の原点らしい。彼は戦後初の小学卒業生であった。どうもこの世代の意味するところは大きいらしい。少し年長の世代は敗戦で価値転換を経験したらしいが、「私は一種清潔なモラル、出所進退を明らかにすること以外は覚えていない」と中井は記す。多才なモラリストである。ヴァレリー等の訳詩も手掛け、一夜漬のインドネシア語で現地で講演をやってのけたり、「病棟は精神科の唯一最大の治療器具」として、自分でバース図を書いて病棟の設計まで行う。東、西、中部にある三病棟は中井の代表作である。又、阪神淡路大震災後の精神科医としての活躍は言うまでもなく、心のケアセンターを中心とした行政手腕も中々なものだろうと想像する。そういう彼に影響を与えたのは明治を生き抜いた二人の祖父であり、その物語をあつく語る。同年の江藤淳もお祖父さん子であったが、自裁した。だが中井は意気軒昂である。
 −原爆投下を持ち出したビン・ラディンを「よく言ってくれた」と思ったのは私だけではないと思う(彼はきっとそれを計算していたのだろう)。もっとも、日本に原爆があったら、ためらうことなく使っただろうと当時の軍人たちを知る私は確信している。(中略)世界のほとんどすべての支配者はアメリカのグローバリズムに賛成するのをはばからない。それはかってのローマ帝国以上の世界帝国の完成を告げるものだ。ただ、もう一つのグローバリズムがある。それは貧困のグローバリズムであり、それは端的に「われわれと共に苦しめ」と言うグローバリズムである。私のテロリズムへの嫌悪と恐怖は私の属する国と階層と切り離せないかもしれない。−
 冷戦が終わって、西側の一つのショウウインドウでもあった日本はその限りに置いて、無意味化した。狡兎死して走狗煮烹らる。彼は経済学者に冷笑されても日本の進む道は「ものづくり」しかないと言う。私のような狩猟民の末裔は害あって益なしかもしれないが、マネーゲームに現を抜かせば、いわゆる中流層がすっぽり抜けて、勝ち組、負け組みの二極分化となり、需要拡大は無理。人口も減少となり、この国は滅亡へとまっしぐらとなる。かって、フランスは移民達によって活性化されたが、この国も「ものづくり」に長けた優秀な移民を積極的に受け入れ、人種を問わない中流層を核とした「くにづくり」をすれば、この国は存続し得る。と、私には耳の痛いメッセージを受け取った。やはり額に汗しない人々が勝ち組になる世界は間違っているとの最低限のモラルは宗教、民族を問わず支持されるであろう。例え、それによって、額に汗しない私の居場所がなくなろうとも、甘んじて受けるしかない。ただ、大きな顔をしなければ、この国の片隅に遊民でも生かしてくれるであろう。センセイは詩人でもあるのだから。

セミナーでこんな表が示された。ある家の家計です。

A 手取り年収 580万円
B (収支合計)…1 580万円
C 生活費 470万円
D 住宅ローン返済 210万円
E 子どもへの仕送り 150万円
F (支出合計)…2 830万円
G (収支)1−2 (赤字)▲250万円
H 新規追加借入金 250万円

     ローン残高6760万円
この家計を見ると、火の車って一目瞭然ですね。でも、どこかで見たような数字だと思いませんか?
そう、この数字はこの国の平成19年度財政状況のアナロジーなのです。

A 税収・税外収入 58兆円
B (収支合計)…1 58兆円
C 一般歳出 47兆円
D 国債 21兆円
E 地方交付税 15兆円
F (支出合計)…2 83兆円
G (支出)1−2 (赤字)▲25兆円
H 公債権収入 25兆円

     公債残高676兆円
成る程、「こんな家」には住みたくないなぁ。ところで、去年の十月から二ヶ月、6000兆円あった世界全体の資産が3000兆円に目減りしてしまった。この3000兆円はどこに消えてしまったのか?
中井先生の病棟設計のノウハウを生かして家(国)作りをしてもらうしかないのでしょうか?
狡兎死して走狗烹らる
ブッシュからオバマに変わったけれど、軍事ビジネスでやりくりする算段だけはヤメにしてもらいたい。
こんな無駄遣いはありません。戦争ごっこために一体いくらのお金が消えるのでしょうか?勿論、もっと大事な「いのち」も消える。「走狗烹らる」状態になってもいいではないか。