本を買うと印刷機がついてくる時代?

民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?

民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?

民主党マニフェスト」・「再販維持制度」でグーグルすると、神保哲生の『大手メディアが決して報じない、「メディア改革」という重要政策の中身』の記事がトップにありました。

・政府の記者会見をすべてのメディアに開放し、既存のマスメディアの記者クラブ権益を剥奪する。
クロスメディア(新聞社とテレビ局の系列化)のあり方を見直す。
・日本版FCC(米連邦通信委員会のように行政から独立した通信・放送委員会)を設立し、放送免許の付与権限を総務省から切り離す。
・NHKの放送波の削減を検討する・・・等々 
 これらの政策はいずれもマニフェストには載っていないが、民主党の正式な政策だ。記者会見の開放はマニフェスト発表の記者会見で鳩山由紀夫代表自身がはっきりと明言しているし、その他はすべて『民主党政策集INDEX2009』に明記されている。

神代哲夫は『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』でかようなことを主張し続けているわけです。

筆者は日本のメディア業界がこうした構造的な問題を抱え、そのために国際競争力をつけることに失敗しているばかりか、ジャーナリズムの公共的な機能さえも果たせなくなっていることを、機会あるごとに指摘してきた(詳細については拙著『民主党が約束する99の政策で日本はどう変わるか?』の第18章を参照されたい)。 
 特に「記者クラブ」、「クロスオーナーシップ」(新聞とテレビの業際保有の英語表現。民主党は「クロスメディア」と表現しているが意味は同じ)、「再販売価格維持制度」(メーカーの定めた定価での販売を小売業者に義務付ける制度。日本では独占禁止法で原則禁止されているが、例外として新聞や書籍などに認められている)のメディア特権3点セットが、産業としての、そしてジャーナリズム機関としてのメディア業界をダメにしているとして、メディアの構造改革の必要性を訴えてきた。 
 最近筆者はこれに、政府が放送免許を直接付与する制度を改めるための「日本版FCC=独立行政委員会」問題を加え、メディア構造問題4点セットとして、問題提起を行っている。

選挙の結果はわからぬが、政権交代が実現したら、かような再販維持制度、記者クラブクロスメディアなどの問題に切り込むことができるかどうか、マスメディアがあまり報道しない地味で目立たないところなのです。でも、メディア側にとっては、もっとも関心の高いところでしょう。シビアに経過観察したいと思う。
そんな思いもあって、永江朗の『本の現場』のbk1の書評を投稿したところもあるのです。全文アップします。

本の現場―本はどう生まれ、だれに読まれているか

本の現場―本はどう生まれ、だれに読まれているか

【本書は希望小売価格1800円+税【非再販】】
栗山光司(2009/08/25 22:13:59)
本を取り巻く流通は主流も支流も複雑怪奇でわからぬことが益々増えているが、本書は本屋の今を困難な問題(1)再版維持制度、(2)委託制度に対して迂回しないで正面から、業界以外の人にも見通しの良い出版流通地図を懇切丁寧に説明してくれている。
雑誌『図書館の学校』の2005年4/5月号から2007年2/3月号まで連載した「本はどのように生み出されているのか?」「本はどのように読まれているのか?」をまとめたものです。付記としてそれぞれの項目ごとに連載記事以降の情報を検証して著者なりの考えが変わったところ変わらなかったところを誠実に追記している。
それによって本に奥行きが出来、長い時間のスパンの中でやはり何が問題だったのかの正体が説得力を持って浮かび上がってきたことでしょう。公表されたデータも出来うる限り参照している。
重要な問題は再販維持制度、委託制度にかかわる「責任販売制」だと思うが、でも、ハイリスク、ハイリターンで自己責任が問われるよりは、取次にお任せのパターン配本で金太郎飴であってもノンビリ本屋稼業をやりたいという人が大多数だったと思う。でも、そういう商売では立ち行かなくなった。消えるしかなくなったというタイトな時代に直面したということでしょう。
永江の出版流通に関する知見はそんな方向性を見つめている。
だいたい、ネット書店でポイント還元とか、ユーズド商品として新刊、古本が混在してネット書店内で販売されているが、新刊と古本の境界線も限りなく溶解している。
新刊書店が委託制度を悪用して実際店頭で売れて在庫を持っていないのに、新中古書店から同じ本を105円で買って売れ残ったとして返品する。そんなあくどいことが可能な流通システムなのです。
《出版界における委託制は、厳密には返品条件付き買切りである。本当の委託制は、商品が売れた後で精算されるが、出版界ではいちど精算した後、返品分を払い戻す。再販制度によって本は定価で販売される。売れ残っても値崩れしない。書店にとっては、客に売るのも返品するのも、本がお金に化けることにはかわりない。もちろん客に売ればマージン(仕入れ値と売り値の差額)を得られるが、返品ではマージンはゼロである。出版社は取次に新刊を納品すれば、書店で売れるかどうかとは関係なく、とりあえずはお金を得られる。出版社にとっても書店にとっても、本は貨幣と同じだ。私はこれを「本のニセ金化」と呼ぶ。「本は出版界の地域通貨だ」という人もいる。P24》
このように大取次、大出版社を核とした再販維持制度の護送船団方式は「信用ある金融機関」として駆動してきたわけです。ただ、それも揺らぎ始めて印刷業界最大手の凸版印刷と書店最大手の紀伊国屋が業務提携、大日本印刷丸善ジュンク堂図書館流通センターを子会社化すると言った大きな流れが旬として今あるわけです。本書は2009年7月の最新刊ですが、この印刷業界の動きには言及していない。
でも、出版流通業界において目の離せないトピックだと思う。従来の二大取次を核とした流通システムが自ら改革できないのなら、印刷業界が乗り出すという構図でしょうか。
破綻を先送りして、本という名のニセ札を刷る。そんな自転車操業はもうそろそろヤメにする決断に差し掛かっているのかもしれない。30数年で新刊点数が約4倍に増えたのです。でも売上げは2倍位しか増えていない。つまり30年で一点あたりの販売金額は半分になったということです。少量多品種がどんどん進行している。返品率は40%で30年前と比べて10%アップしている。本屋の棚に滞留しているタイムは短くなっており、新刊委託送品されても棚に並べないで即返品も珍しくない。
小手先、もしくはなし崩し的に再販維持制度・委託制度をつつくのではなく、業界全体で流通システムの改変に取りかかるべき時期に来ているのではないかと本書を読んで再認識しました。
ちなみに、本書は希望小売価格1800円+税【非再販】と表示されているが、果たしてこれ以外の値段で売った本屋さんはあっただろうか?
もし、これから本書をリアル書店で買うつもりなら、書店員に「負けてくれませんか?」って声かけしてもいいかもしれない。書店員が怪訝な顔をしたら、別の本を棚から取り出し、こちらの本は定価○○○円(本体○○○円)で表示されて再販価格だけど、本書は非再販で希望価格表示になっている。これ以外の売価でもノープロブレムでしょう。
ちなみに、bk1の書影を見ると本体価格になって希望小売価格の表示になっていませんね。諦めてください(笑)。http://www.bk1.jp/review/0000477562

昨日アップした記事の日本語訳です。♪ソーシャルメディアはいかに歴史を作りうるか
確かに《本を買ったらおまけで印刷機が付いてくるようなものです。右のボタンを押すとラジオに変わる電話みたいなものです。》そんなメディア環境に僕たちは生きているのでしょう。読者(消費者)であると同時に新聞・出版社(書き手)であるような受信と発信が同時多発的に駆けめぐる装置を手に入れたのです。良いとか悪いとかの問題ではなくその道具で新しい世界に船出するしかないのです。
こんなニュースも飛び込みましたねぇ。http://mainichi.jp/select/today/news/20090828k0000m040062000c.html