がん登録と個人情報

2009年11月4日の毎日新聞「くらしナビ」でDr.中川恵一の「がんから死生をみつめる」という連載記事(30)が掲載されていました。
そこで、がん登録に関してデータの信頼性について疑問を呈している。

たとえば、同じ進行度の同じ種類のがんの「五年生存率」を比べ、A病院がB病院よりも優れているとなっていても、A病院の方がよい治療をうけられるとは限りません。仮に、二つの病院で、同じ年齢構成のがん患者を100人ずつ治療し、それぞれ20人ずつ再発して亡くなったとすれば、二つの病院でのがん治療の腕前は同じくらいと言えます。しかし、A病院の患者の平均年齢が60歳、B病院が80歳だった場合、A病院の方の5年生存率がよくなって当然です。B病院で亡くなる患者には、がん以外で亡くなる患者も多く含まれるからです。このような判断をするとき、役に立つのが「がん登録」です。がん登録によって集められた一人一人の患者のデータを基に分析しなければ、正しい情報は得られません。

特に分母になるデータは重要でしょうねぇ。恣意的に「個人情報保護法がネックになる」という言い訳で科学的ではなく政治的な判断のデータが集積されるリスクを負いやすい。装置として自動的に「がん登録を患者の同意を得ずに実施すること」がよりデータの信頼性を高める。

たとえば、同じ治療をした肺がんの患者が200人いたとします。このうち体調の良い100人が登録に同意し、症状が重い100人は同意しなかったとします。5年後、同意した100人のうち80人が生存、同意しなかった患者は全員亡くなった場合、データに残る5年生存率は80%になります。ところが200人でみると生存率は80人ですから、実際の生存率は40%になります。
 複数の病院を受診する患者も多いため、各病院のデータを都道府県単位で集める際、同じ患者のデータの重複を避けるため、名前や生年月日などの個人情報を照合する必要があります。つまり、がん登録では、全例登録と個人情報の利用が前提となります。がん登録の法制化が望まれる理由です。

効果的な治療方針、処方箋を構築するためには、より正確なデータ分析は必要不可欠なものでしょう。国民一人一人のみならず国境も越えて人々の共有の財産として有用な情報を集め活用すべきでしょう。中川さんは、そんな思いをがん登録は「過去の患者さんからの贈り物」とおっしゃっているが至言です。
参照:http://yuigon.info/news/?p=2455
http://yuigon.info/news/?p=1614
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