二都物語/生物と文学のあいだ

二都物語 (上巻) (新潮文庫)ヘヴン
図書館のリサイクル棚にあったディケンズの『二都物語』(中野好夫訳)読み始めると止まらない。
大昔読んだ記憶があるのに定かではない。面白くて新鮮な気分で読んでいる。
19世紀の翻訳小説は年寄り向きなのかとつくづく思う。
図書館の雑誌コーナーにあった『文學界』の2008年8月号に福岡伸一×川上未映子の対談『生物と文学のあいだ』は見事に噛み合ったやりとりで、続編をやってもらいたいと思いました。

川上 本の中で他にも印象的だったのは、「秩序は守るために絶え間なく壊されなければならない」というシェーンハイマーの言葉です。一見すごい矛盾に見えますけれど、生命体が生き続けるためには、常に分解と修復を繰り返さなければならないということですね。
福岡 ええ。二十世紀の細胞研究の歴史を遡ってみると、最初はみんなDNAがどうやって作られるか、とか、タンパク質が作られる仕組みはどういうものか、という風に、「作る」方ばかり見てきたんです。ところがここ二十年ばかりの細胞学の最大のトピックは、細胞は壊す仕組みの方が、作る仕組みよりずっとキャパシティーが大きい、ということでした。まず先行して壊さなければ、新しいものは生み出されないんです。
川上 今のお話、生物学でけではなくすべてのことにあてはまりそうですね。小説の文体を作る上でも常に感じていることです。先日ドイツで作家の多和田葉子さんにお目にかかる機会があったんですが、多和田さんも「言葉には成り立とうとしているけれども、同時に壊れようとしている力が含まれていて、だからこそ言葉は生きている」ということを、「ユリイカ」の多和田葉子特集の中の鼎談でおっしゃっています。小説というのも言葉の「動的平衡状態」なのかもしれませんね。(p190)

がん細胞は自分が何者になるか(何らかの臓器)わからないで、不死身に壊れないで増殖してゆく。
正常細胞と癌細胞の『二都物語』です。
川上未映子の『ヘヴン』も読みたいのに、とうとう来年になりますか。