僕は精神が好き、嫌い?

小泉純一郎だった。小泉元首相は白髪頭を振り立て、何か雄叫びを上げ、腰をぐるぐる回転させて、エルビス・プレスリーばりのセクシーダンスに熱中している。完全に自分に酔っぱらちゃっている。ふいにその隣の男が、ぴょんぴょん跳び始めた。その場で高く真上に跳ぶシド・ヴィシャスが発明したポゴダンスだ。……石原慎太郎だった。石原都知事は目をパチパチさせ、ただもう、ぴょんぴょん跳びはねている。一心不乱に、高く、高く、跳びまくっている。ああ、ファンキー・ジャンプだ。(p162)

中森明夫の『アナーキー・イン・ザ・JP』(「新潮 2010/5」)を読了。
オレ(シンジ)はセックス・ピストルズのパンクにハマッテ、
イタコおばばにシド・ヴィシャスを呼び出してもらおうと、
御札?に「…シド・ヴィシャス…ナンバーワン・アナーキスト
と書いて唱えたら、「ナンバーワン・アナーキスト」のところが反応あって、(そりゃあ、ムリもない。キーワード検索は日本語だからシド・ヴィシャス、はスルー)
「僕は精神が好きだ!」と天地が裂けて、「ナンバーワン・アナーキスト大杉栄が登場して物語は始まるわけです。
しかし、「僕は精神が好きだ!」はカントの精神のように反転して、ヤバさをも感じる。

ワンマイクでツインボーカルのようにオレとりんこりん、何かわけのわかんないことを叫び続けたね。ぴょんぴょん跳びはね、互いに髪を振り乱しながらさ。インチキバンドの騒音がドシャガシャそれをあおり立てる。目の前のおやじたちが踊りまくる。会場全体がめちゃめちゃ熱気を帯びている。ひょっとこ顔のタコ踊り議員だけじゃない。いつのまにかステージに上がって踊っている奴がいる。ほっそりとした野郎。細面で鼻の下にひげをたくわえ、細い目をさらに細くして、笑っている。……幸徳! 幸徳秋水じゃないか! オレは目をこすったね。幸徳秋水の奴、ニコニコ笑いながらフラダンスを踊っていたよ。

というわけで、踊るアホの面々が延々と登場するわけですが、名前だけを順番に紹介します。
菅野須賀子、大石誠之助、奥宮健之、宮下太吉、森近運平、内田愚童、古河力作、新村忠雄、成石平四郎、松尾卯一郎、金子文子、朴烈、難波大助、久板卯之助、村木源次郎、和田久太郎、古田大次郎中浜哲プルードン、 バクニーン、クロポトキンマルクスレーニンスターリン、サヴィンコフ、三島由紀夫、ネストル・マフノ、辻潤石川啄木福沢諭吉武者小路実篤有島武郎高見順中村武羅夫竹中労、ネチャーエフ、福田和也後藤新平鶴見俊輔、埴谷ナニガシと鎌倉サド男氏、 ネグリ&ハート、ジジェク東浩紀宮台真司柄谷行人、キリスト、モーゼ、ブッダマホメット老子……。
みんなみんなアナーキスト?なのですかそんなバカな…と、叫ぶオレ(シンジ)は倒れる。
そして…。杉さん! …角さん!ではなかった。 野枝さん!

 大杉栄伊藤野枝の魂が、愛が、性が、革命が、その熱いキスが……百年の時を越え、今、オレたちの身に舞い降りて、燃え上がる!!
 
 オレは目覚める。眠り姫……いや、眠り王子みたいに。覚醒のキスだ、大きく瞳を開き、ジャンプして、目の前のマイクをつかむと、唄う、叫ぶ、わめく、雄叫びを上げる。
  アイ・アム・アン・アンチ暗い人
  アイ・アム・アン・穴あきっ子

パッチワーク小説とも言えなくはないが、大杉栄に関心を持つ切っ掛けになる啓蒙小説とも言える。
エンターティメントとしても面白い。終わりに膨大な参考文献を掲載しているのがいいねぇ。
これも又、大杉栄は、大澤真幸の言う「消えない幽霊のような夢の生成」かもしれない。
シンジの兄貴は「三十一歳・フリーター・西一郎」として『頓挫』という雑誌に希望は「もはや戦争しかない!」(もは戦)と論壇デビューした人。その彼が上の政治パーティーの仕掛けしたわけなのです。