イレッサ訴訟

大阪地裁の判決が出ましたね。製薬会社に約6千万円の賠償を命じて国の責任は認めなかった。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110225/t10014296371000.html
立花隆の『がん 生と死の謎に挑む』でイレッサに言及したところを引用してみます。原典にあたって下さい。(p149-151)

生体の中で起きる生化学現象の基本はすべてこのように「因子とその受容体」がカギとカギ穴の関係で結びつくことによって、一連の生化学的な連鎖反応にスイッチが入るという現象にあるのです。あのパスウェーマップに出てくるパスウェーの一本一本に、カギとカギ穴のスイッチが何カ所かずつ入っているのです。
ここで問題なのは、それらのカギとカギ穴が、全部精密な一対一対応の関係になっているかどうかということなのです。もしそうなら副作用の問題は起きないのですが、一つのカギで二つ以上のカギ穴が開けられたら(あるいは二つ以上のカギで開くカギ穴があったら)、副作用の問題が起きてしまうだろうということが容易に想像がつくでしょう。
実際そうなのです。複数のカギ穴にはまるカギもあれば、幾つものカギで開けられてしまうカギ穴もあるので、分子標的薬の世界でも、思いがけない副作用が起きてしまうのです。それがようやくいろいろわかりはじめたところなんです。それも、手足がしびれたりとか、発疹が出たりといった程度のことならまだよいのですが、場合によっては、副作用で人が死ぬこともあります。
殺細胞薬のほうは、もともとが毒物だから、ちょっと用量をまちがえたりすると、患者が死ぬことがあるということが前から知られていました。しかし、分子標的薬はかって夢の新薬呼ばわりをされていて、そのような重篤な副作用は出ないと思われていました。
「夢の新薬」だったはずの分子標的薬が死者を出した事件として最も有名なのが、肺がんの抗がん剤イレッサ」が起こした事件です。イレッサは2002年に日本が世界で最初に承認したアストラゼネカ社の分子標的薬ですが、最初の年に百八十人の死者を出し、次の0三年も二百二人、0四年も百七十五人と少なからぬ死者を出しつづけました。0四年には遺族が国と製薬会社を相手取って損害賠償を求めて訴訟を起こしました(訴訟は10年11月現在継続中)。EUではアストラゼネカ社のほうで承認を取り下げ(0五年一月)、日本につづいて承認したアメリカでは、新規患者への投与が禁止される(0五年六月)ということが起こりました。
日本ではいまも使われつづけていますが、かっては、どんな医師でも処方できたのに、すぐ緊急事態に対応できるような態勢をととのえた上での使用が義務づけられています。こういう事態になっても、日本でイレッサが使いつづけられているのは、一定の患者には、イレッサがよく効くからです。そして、どういう患者に効いて、どういう患者にはあまり効かない、あるいは危険な副作用があるかを調べたところ、特定の遺伝子(EGFR遺伝子)に変異がある場合(日本人に多い)は確かによく効くという結果が出ているからです。日本でも使用に先立ってこの遺伝子変異の有無をチェックすることが求められているし、一時、薬の承認申請が取り下げられていたEUにおいても、この遺伝子に変異がある場合に限って、テストが認められたというニュースが最近出ています。

長々と引用しましたが、この部分だけでは理解が届かないかもしれない。全部を読むしかないなぁーとは思います。