ロバート・S・マクナマラ

ドキュメント映画『フォッグ・オブ・ウオー』(the fog of war)を“シネ・リーブル梅田”で観ました。広島・長崎原爆投下で核使用のシナリオが出来上がっているのに、あまりに、不必要なB29による焼夷弾の大量投下も悲惨であった。東京大空襲は一日十万人の死者である。富山、横浜、名古屋など、焼夷弾の無差別攻撃は続く。空軍のマクナマラの上官クネイ将軍は、徹底したリアリストで、負ければ戦争犯罪人、勝つしかないという冷厳さで、当初、B29は9000メートルの高度で投下する設計だったみたいだが、精度を重視して、1500メートルの低空で僚機が犠牲になって厭わず、焼夷弾をばら撒いた。そんな大掃除をした上での原爆投下である。見ていて腹が立ったが、呉大空襲の空撮写真がスクリーンに一瞬映じられ、ひょっとして、あのフレームの中に赤ん坊の僕自身がいるはずだと、不思議なデジャ・ビュに捉えられました。その将軍はキューバー危機の折り、核を使用すべきだと、強腰を貫いたらしい。カストロフルシチョフケネディ、綱渡りの戦争回避であった。マクナマラは言う。かっての戦争にあって司令官が作戦のミスをして、大量の兵士、市民が犠牲になっても、国が滅びることはない、だが、核は一回の失敗も許されない。三回失敗して、一回成功すればの方程式は通用しない。冷戦構造が少なくとも大統領の頭をクールに保っていたことは疑いない、しかし、今は、アメリカのひとり勝ちの様相で、ブッシュのホット加減が危うく感じる。この映画の前にマイケル・ムーアの『華氏911』を観て、ケネディ、ジョンソンと比べたから余計に反応したのかもしれない、ベトナムの教訓は30年以上過ぎれば、忘れられるのであろうか、この映画はケネディ、ジョンソン政権の国防長官とし戦争を指揮したマクナマラが、30年近い沈黙を破ってついに語ったドキュメントで当事者ならではの生々しい証言、フイルムでなどで戦争への経緯を再現しつつ、11の教訓を骨格として、映像の肉付けがされる。

教訓①敵の身になって考えよ ②理性は助けにならない ③自己を越えた何かのために ④効率を最大限に高めよ ⑤戦争にも釣り合いが必要だ ⑥データを集めろ ⑦目に見えた事実が正しいとは限らない ⑧: 理由付けを再検証せよ ⑨: 人は善をなさんとして悪をなす ⑩決して”とは決して言うな ⑪人間の本質は変えられない

彼はフォード自動車社長在任中、ケネディ大統領に懇請され国防長官に就任。ケネディ暗殺後も留任し、ベトナム戦争を指揮。61年辞任し、以降81年まで世界銀行総裁を務める
映画の中の小さいエピソードですが、彼のミドルネーム、Sはstrangeですって、専攻は数理統計学ですが、彼の合理的な思考法の中にやっぱ、“不可思議なもの”がある。だから、エピローグで、彼は黙して語らない。
『映画案内』