佐藤真/(1957年〜)阿賀に生きる [VHS]

ドキュメンタリー映画作家の佐藤真さんを始めて知ったのは、東京、北区の王子駅前の、北とぴあの大ホールで、金井美恵子さんとのトークを挟んだ“アジア映画祭”である。1992年、『阿賀に生きる』で衝撃的なデビューを果たしたドキュメンタリー映画作家のことを知らなかったのです。猫背の大男とショートカットした、ころころした、猫と少女が年経て、ゴムまりになってしまったような美恵子さんの歯切れの良い映画解説に、大男の佐藤さんは絶妙のコンビネーションでからみ、トークを映画とともに楽しみました。アジアと冠しても、イラン、ロシア映画も範疇に入り、それまで、社会に出てから、大スクリーンで映画を観る習慣をとんと、忘れていましたが、大病で退院してなんとなく、まっとうな映画を観たくなったのでした。そんな心の琴線の受容装置が作動していたのでしょう。「ああ、映画って、こんなにも面白かったんだ」、ビデオで、ハリウッド映画、ヨーロッパ映画を観るぐらいだった僕は、凄く新鮮に映画鑑賞が出来たのです。でも、佐藤さんの『阿賀に生きる』が上映されたわけではありません。その代わり、コーヒーブレイク(珈琲時光)のような感じで、佐藤さんの子供さんが通っている保育園での一日をドキュメントした園児の父母ともども、制作スタッフとして、作り上げた短編映画を上映してくれました。セット大工仕事や、仕掛けつくりや、サイレントなので、園児の先生が特別出演して、ピアノ演奏で、興を添える。数百人収容できるホールですが、若い女の先生はどうにいったものでした。この保育園、ぼくの住んでいたところの近くにありましたので、町内会のイベントのノリって言う感じもしますが、上映する映画もお二人の映画論もレベルが高く、その乖離の可笑しさを楽しみました。勿論、地元の図書館に佐藤真のビデオがあり、初めて『阿賀に生きる』を観ることが出来ました。長時間、地元に住み込んで、地元に溶け込んで、カメラを回した手触りのする、人間の匂いのぷんぷんする映画でした。この人の人柄そのものなんだろうなぁ…と、気になったら、それから、王子駅周辺で、チャリンコに子供を乗っけた猫背の大男を再三、目にするようになりました。ぼくの好きな作家で堀江敏幸がいますが、原作『いつか王子駅で』を佐藤真監督で是非とも撮ってもらいたいと、そんな夢をみています。でも、彼の夢は『トウキョウ』を撮ることらしい。⇒『北とぴあ』