僕の歩行器は八十キロは無理です。

夜のピクニックベストセラーだけが本である趣味は読書。ユージニア
<恥ずかしい読書…>のエントリーで紀伊国屋の現役書店員達が選ぶ小説で栄えある“キノベス2004”を紹介し、ベスト一位は恩田陸さんの『夜のピクニック』だったのですが、今日、図書館に寄ったら入荷していました。貸出票を見ると人気の程を納得しましたが、いざ、ページを捲ると、期待に膨らんだオヤジの脳内がちょっと、フリーズした感じになりました。恐らくぼくの脳内がリフレッシュしていないのでしょう。前日のカキコで特に小説のレビューの困難さを書きましたが、この小説はエンターティメントの分類に入るのでしょうが、いわば、純文学でないことはわかる。でもこういう文体が楽しめるんだと、そのことに戸惑いを覚えました。ぼくの感性が鈍磨しているかもしれない。それで、コメント、レビューを書かないで、冒頭だけ引用してみます。それで、続きを読みたいと思った方はどうぞ…。

晴天というのは不思議なものだ、と学校への坂道を登りながら西脇融は考えた。/こんなふうに、朝から雲一つない文句なしの晴天に恵まれていると、それが最初から当たり前のように思えて、すぐにそのありがたみなど忘れてしまう。だが、もし今のお天気がどんよりとした曇り空だったらどうだろう。または、ポツポツと雨が降っていたりしたら。ましてや、吹き降りだったりしたら?/彼は自分がそんな天候の中で坂を登っているところを想像してみる。傘をさし、足元が濡れ、舌打ちをしながらここを歩いている俺。/そうしたら、今、心の中にあるのは、お天気のことだけに違いないのだ。どうしてよりによって今日がこんなお天気なんだ、頼むからせめて雨だけは降らないでくれ、贅沢は言わないからなんとか止んでくれ、なんでこんなにツイていないんだと、今ごろ空の上の誰かを罵ったり、誰かに祈ったりしているんだろう。/だけど、実際のところ、今日はこんなにも素晴しい、あっけらかんとしたお天気なのだ。風もなく、ぽかぽかして、秋の一日を外で過ごすのには最高の晴天。だから、俺はたちまち天気のことなど忘れえてしまう。その幸運を当然だと思い込み、もし今後ろから友達に声を掛けられたら、あっというまに頭から天気の話題など消え失せてしまうに違いないのだ。/「とおるちゃーん」/後ろから思い切り肩をどつかれ、その痛みに多少腹を立てて振り返った融は、たった今自分がした予想通り、すっかり天気のことなど忘れてしまった。

ぼくはこれ以上、読み進めません。ベストセラーなので、最後まで読めばきっと、何かがあるのかもしれません。誰かぼくの代わりに読んで感想を聴きたいものです。テーマが高校の歩行祭なので、“千人印の歩行器”とまんざら縁がなくはないのですが、夜を徹して八十キロ歩く忍耐力は、やはりないです。内容よりは文体なのです。背中を押してくれる文体ではないのです。それは非常に個人的な好みなので、この文体が好きだという人は読んだら面白いかもしれない。どちらにしろ、本書に関してはぼくはコメントする資格はないですね。しかし、bk1の投稿書評は12件(その内、編集者と作者自身のもアップされていますが…)、この書評が色々あって面白い。とくに“みーちゃん”さんの書評には笑ってしまいました。

  • 追記:再チャレンジして読みました。そしたら、体調がよかったのか、中盤から面白くなって、とうとう完読しました。感想は別のエントリーに書いています。オマケに第二回本屋大賞授賞されました。おめでとう!(2005年4月6日記)