空中庭園

 双風舎『限界の思考』が発売延期になりましたね。でも、より充実した内容になるのでしたら、大歓迎です。“待てば海路の日和あり”です。そんな余裕で久し振りに宮台コムをロムしました。イーストウッド映画『許されざる者』角田光代原作の映画『空中庭園』をテキストに「主知主義から主意主義へ」という転轍で「終わりなき再帰性」の泥沼を「終わりある再帰性」の堅牢に変換しうるか。その考えの軌跡が独特で色々と僕に気づきをもたらせてくれました。でも、相変わらずの長文なので、興味ある方は本文をどうぞ。ここにちょいとだけ僕のメモをアップします。

●テキスト1許されざる者
 結局、平和を自明に生きるヘタレが暴力に向けて噴き上がり、非自明的な平和を再帰的に生きるタフガイが(いつでも振える)暴力を「敢えて」抑制するのだ。−【A】
 巷ではイーストウッドが右翼「なのに」、ネオコンイラク攻撃に反対すると語られる。逆だ。右翼「だから」だ。ネオコンこそ、本来〈世界〉内に存在し得ない「道徳的明澄さ」を追求する主知主義という意味で左翼的だ。ー【B】
●テキスト2空中庭園 /bk1書評
 ■その問題解決とは何か。再帰化だ。嘘に嘘の積み重ねが明らかになった。「家族/非家族」の差異化に用いられた個人的契約は全て廃棄された。即ち定義によれば家族解散。にもかかわらず(さと子とミーナを除く)旧成員が戻ってきた。契約が敢えて結び直された。
 ■旧約ならぬ新約。何が起こったか。ラクロの書簡小説『危険な関係』的に言えば、嘘に嘘を積み重ねつつも一緒に居続けたという共通履歴が、別水準のありそもなさとして──新たな共通前提として──見出された。しかも今度は誰も否定できない事実の共有である。
 ■この瞬間、京橋家の「終わりなき再帰性」は「終わりある再帰性」に転じた。共通前提維持に参与する個人的契約・の理由が個人的選択であり、個人的選択の理由も個人的選択であり…という自意識の泥沼が、泥沼の経験という否定不能な共通経験に置換されたのだ。
 ■これもまた泥沼の暗黒時代を経た後のギリシア神話ないし初期ギリシア哲学的な結末であり、右翼的だ。そこでは主知主義的な形而上学が放棄され、共通体験した事実が引き起こすミメーシス(模倣・感染)・がもたらす端的な意思が──主意主義が──賞揚される。 ー【C】

 前、前日と保坂和志の『小説の自由』を読んで保坂さんのモードに入ったのか、こうやって宮台真司コムなり最近読んだ『日常・共同体・アイロニー』(双風舎)、そして間違いなく読むであろう『限界の思考』について考えると、「小説」と「人文・社会科学書」とは読みモードが違うのだとつくづく感じます。「小説」とは「読む」というより、「体感」でしょう。批評のアンテナを鋭敏にして「小説」を読むのはそれによって録を食む文芸評論家であり、書評家でしょう。読むことそのものに、当事者として耽溺するわけにはいかない。映画評論家、美術評論家にしろ、作品が映像、絵という文字でない表象であることが「批評された言葉」が作品とは別個の評論家自身の作物だという了解は比較的理解し易い。
 だが、小説はそうはいかない。同じ文字で表象され、それを批評する。外部からたやすく文学と本来縁のない装置が流入する。批評された言葉が本来の作品に成変わって流通し評価される。そんな不幸な事態があまりに多いのではないか。
 映画二題をテキストに批評する社会学学者の宮台さんのメッセージは「小説」と違ってキャッチボールのやりとりが出来ますね。社会学者による批評は「映画」、「小説」を見事に腑分けしてくれる。でも、それはあくまで宮台真司の文責、分析で彼のメッセージを補完するものでしょう。上手いものです。こんな風に説明されると思わず説得されます。待てよとは、思っているのです。

主知主義から主意主義へ」は乱暴に言えば「地獄を見たことのないヤツは信用できない」って言うことでしょう。丸山真男大江健三郎達の戦後民主主義は“虚妄の効用”の空中庭園であったろうが、システムとして見事に作動してこの国を豊かなものにしたわけでしょう。それが失われた10年によって、嘘が暴かれ…。9・11が起こり、アフガン、イラク、そして又、ロンドン7・7が起こった。
 問題はそこからと言うより今、なんでしょう。今から、何でしょう…。ノンシャラと無垢性で対応するヘタレの思考停止は地獄を見ないと主意主義に変換し得ないであろう。だからと言って野次馬根性で高見の見物の場所はどこにあると言うのか?恐らく地獄の中心へ、無痛文明の中心へ、当事者として入り込むしか問題解決の回路はないのでしょう。というメッセージを宮台さんは発信しているのでしょう。国民皆兵制もそのような文脈で考察されているのか。だから、待てよ!と説得されないように踏んばっているのです。
参照:『風の旅人』編集だより :未来から見る現在①
   [『風の旅人』編集だより :未来から見る現在②