文庫の夢?

     オンライン書店ビーケーワン:風の旅人 Vol.22(2006)
 『風旅文庫』、『風旅叢書』っていうか、そんなイメージで雑誌『風の旅人』の編集長佐伯剛さんは酔夢を見たらしい。その思いをブログにエントリーしているが、僕は思わず、ミクシィの方にコメントしてしまった。でも、一晩置いて、又目覚めれば様々なハードルに気がつかされる。ハイリスクです。
 でも、大冒険が『風の旅人』のコンセプトの一つであるみたいだし、常識判断ならやらないだろうけれど、だからこそ、やるんだという編集長の頑固さと心意気なら、やってやれないこともない気はします。
 ウラゲツさんの月曜社森山大道『新宿+』が文庫として11月20日に発売されますね、書影が公開されていますが、本の厚さが50ミリもありますね。月曜社さんは単発で文庫を発刊するわけでしょう。版元の叢書、ライナップとして文庫を定期刊行するわけではない、でも風旅さんがやろうとしていることは、『風の旅人』の文庫版を著者別に思い描いたと思われます。ここの出版社は良くも悪くも佐伯さんの「一人出版社」だから、理屈(過去のデータ)でなく、鋭敏なアンテナで出版を決断するかも知れないですね。通常なら、単行本で助走して文庫化というのがメインストリートでしょう。
 愛読者の一人として「さて、それだったら、著者の誰に?」って言うことになると、過去のコンテンツから、白川静養老孟司保坂和志茂木健一郎佐伯啓思安保徹酒井健田口ランディ、菅啓次郎、武田徹前田英樹港千尋野町和嘉水越武本橋成一中村征夫岩合光昭星野道夫森山大道中野正貴、等を思い浮かべることになりますが、新書はともかく、文庫となると、そのコンテンツと何か馴染まない気がする。
 『風の旅人』はあの器、衣装、のデザインの中でコンテンツが相互にシンクロし合って独特の世界を作り上げているわけでしょう。その中から一部を取り出しても、(その世界は佐伯さんの世界でもあるわけです、この雑誌は良くも悪くも編集長が突出しているのです。)どうかなぁ…という疑念があります。 新書ならまだ想像しやすい、過去のコンテンツを骨にして書き下ろしを追記ということになるのでしょうか、でも、『風旅・写真文庫』ということなら何とか想像出来ます。
 この雑誌のカタチ、コンテンツは佐伯さんの心身全体の中にある。そこから一部を切り離して文庫化すると、その部分は全体を現せないで多分死んでしまう可能性が大だろうと思います。ただ、このエントリーで佐伯さんはそのことをわかった上で「風の旅人」という器を文庫、叢書というシリーズで装備しようとしているのでしょうね。 そのためには、ある程度のボリュームがなくてはいけない、文庫化しても数点なら、全体としての「風の旅人」を提示できない。一挙に10点前後のパフォーマンスが要請されるでしょうね、一点だけの文庫の出版ならコストはあまりかからないが、店頭に埋もれてしまう。単行本の出版と五十歩百歩になるどころか、よりハンディを負ってしまう。 大手の出版社でも文庫化は同時に沢山の複数点、販促による認知と大きな資金が投資される。
 とにかく文庫化は今の『風の旅人』以上に(多分?)比肩しうるプロジェクトです。それこそ、絶版になっている他社のコンテンツからも『風の旅人』に合ったものを探してくるかして、ボリュームを揃えるしかないでしょうね、例えば、日野啓三小島信夫などでも品切れ・絶版になっているのが多いでしょう。
 『風の旅人』のデータからだけでなくコンテンツを集めれば良いものが出来うるとは思う。でもそうなると、おおきなプロジェクトになりますね。
 僕の勝手な想像ですが、『風の旅人』の実売は5000刷って、3000で残りは時間をかけて売って行く。3000部って、中堅芥川賞作家の初刷部数でしょう。いわば、『風の旅人』のような雑誌にシンクロする読書人は3000人〜5000人ぐらいでしょう。
 ○○万部って言うことになると、世界をマーケットにした英語版を出版することでないと無理ではないか、広河隆一の『月刊写真誌「デイズ・ジャパン」』にしたところで、海外で写真展を行ったら反応が凄かったのでしょう。野町和嘉豪華写真集『地球巡礼』にしたところで、英語版、フランス語版、スペイン語版の方がよく売れたと聞き及びました。そう言えば大江健三郎が自分で審査した新人の小説を翻訳出版して海外に紹介するプロジェクトを立ち上げましたよね、あれはどうなっているのだろうか?
 だから、僕は文庫化よりは、海外版『風の旅人』を立ち上げた方がいいのではないかと言った勝手な酔夢を提示したいです。
 と言うようなことを書いたら、かぜたびさんがコメントしていましたね、ソフトカバーの単行本で1000円位の価格設定で企画を練るということです。これなら、正夢ですねw。
 参照:風の旅人 編集便り 〜放浪のすすめ〜