骨は骨として、チンチン

 
病院の検査の状況は良好であった。急カーブでPSA数値が上昇していたのに、下がっていた。延命ですか、薬を追加した効果があらわれたということでしょう。継続していた皮下注射液にプラスした治療法です。男性ホルモンの分泌をよりブロックするわけです。でもこの薬も時間がたてば、効かなくなってゆくらしい。そうしたら次の治療法は〜ということで、先生から教わりましたが、それでダメになれば、抗ガン剤だと言う。
 「抗ガン剤って、どの程度効果があるのですか?」、そしたら、先生、「抗ガン剤が決め手なら最初から使います」ってハードボイルドなお答え。
 若い先生なので時々、僕の方から冗談を言うこともあるのですが、あっさり言ってのけるところがあるのです。
 彼も又誠実な科学者です。
 でも年取ったガン細胞は潜在ガンとして成長しない場合が多いからそんなに心配することもないか、そしたら先生、いや、問題はガン細胞の顔なんです。年齢によってガン細胞の成長度合いが測れるわけでない。年齢に関係がない、色々な顔があるのです。正常細胞はと問うと、それは同じ顔だと言う。そこで、僕はこんな箴言が浮かびました。
不幸せな顔は無数の表情があるけれど、幸せな顔の表情は一つ
 戦争と平和の顔もそういうものでしょう。
 病院の待合い室で、稲泉連の『ぼくもいくさに征くのだけれど 竹内浩三の詩と詩』を読み始めました。その中で戦前に書かれた補作される前の詩「骨のうた」からの一節を一部引用。

(略)
白い箱にて 故国をながめる
音もなく なにもない 骨
帰つては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や 女のみだしなみが大切で
骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらひ
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は骨 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきを 聞きたかった
それはなかつた
がらがらどんどん事務と常識が流れてゐた
骨は骨として崇められた
骨は チンチン音を立てて粉になつた
(略)

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