わたしは奥歯、「ぷふい」

オンライン書店ビーケーワン:私・今・そして神オンライン書店ビーケーワン:そら頭はでかいです、世界がすこんと入りますオンライン書店ビーケーワン:埴谷雄高全集 3
 芥川賞候補にエントリーされている川上未映子の『わたくし率イン歯ー、または世界』早稲田文学・〇号)を前に読み始めたときは、なかなか最初スムーズに読めなくて、積読状態になっていたのですが、7月17日の選考日が迫ってきたためか、このところ、僕が過去に言及したエントリーに、「川上未映子」のキーワードでクリックしてくれたのでしょうね。訪問客が増えて、それならばと、昨夜、精神を集中して『わたくし率イン歯ー、または世界』、読んだら、いやあ、オモロかった。
 河内弁なのですね、その強烈な文体を引用しようと思うのですが、改行がはるか遠く、諦めました。作者の背後には「永井均の<私>」があるのでしょうか、息継ぎが長く、改行にたどり着くと、ほ!としました。僕の「奥歯」はもうなくて、部分入れ歯の日常です。
 川上さんの奥歯は丈夫なんでしょうね、「<わたくし>は奥歯なんですからね」、羨ましい!この作品で、奥歯の<わたし>に魅入られた<青木君>が登場するのですが、偶然だと思いますが、間に川上未映子渡部直己との対談記事があって、初っ端、「ユリイカ」に掲載された散文詩「少女はおしっこの不安を爆破、心はあせるわ」に感動したという渡部の挨拶から始まるわけですが、
 次のページの作品が青木淳悟の『日付の数だけ言葉が』なんですよ。僕は青木淳悟のファンでもあるから、何か、ほんわかして、いい気持ちになりました。(蛇足)
 歯医者の助手のアルバイトをする只今妊娠中の<わたし>と研修医のもはや産む機械から見放された三年子さんとの「痛み」をめぐる「手紙のバトル」は笑ってしまった。さわりだけ、引用してみよう。

 <痛みっていうもんに対しては誰でも思うところがあるもんです・それっていうのはもとは大きなひとつのもんで・一度あってしまったもんが消えるということはないんです・世界のお金とおんなじで・痛みにも総和があるのです・三年子さんがわたしをつねる・わたしに痛みがやってくる・痛みが移動しただけで・増えたということではありません・いまここにある痛みは・かつてどこかにあった痛み・だから三年子さん・痛みじたいは三年子さんのせいではないんです。(後略)>

 。ではなく、・で「言葉」がつながっているから・引用するに、その鎖を・思い切り切るしかないのです・このパラグラフは・で、延々と続きます・雑誌を購入して確かめて下さい・でも、もうこの雑誌は手に入らないかもしれない・確か千部限定初刷りのみだったはず・まあ、芥川賞の受賞をすれば・候補でも、雑誌のみならず・単行本で読むことが出来きますよ・それまで・愉しみに待ってください・三年子さんの返信は・・・・・・・

 <痛みについて・ごくろうさん・恰好つけて痛みはぜんぶここんところの穴に埋めなさいだなんて・おつかれさん・痛みをぜんぶ引き受けますとか阿呆みたいなことを云うけれど・だいたい世界における痛みの総和ってなんなのよ・あんたが受ける痛みはあんたの中から発生するの・反応で生まれるもんやありません・あんたの中にもともとあるの・それがムードででっかくなったり炸裂したりそんな具合になってるの・だから痛みは他の誰とも共有できぬとそうなってるの・そんなことより正直者のこのわたしは・生きてるだけで・生きてるだけで・まるであたしは丸められた地図になってる気分・教科書・カレンダー・地図は不安の懐かしさ・広げられた地図上の・色んな形にくぎられたいろんな国を見ていたら・国というものが次々に倍へ倍へと増えるから・あん不安・たとえばここ! 地図のうえにはグリーンランドと書かれて・あたしはその文字を読んでひとつ・さらにグリーンランドは真っ白に塗られていて・あたしはそれを目で見てひとつ・これであたしの中のグリーンランドはふたつになりました・ねえ・痛みを共有できぬなんてそんなことわかりきってることでないの・それよりそれより考えて・国ってなにで出来てるの・あんたの体もいま地図よ・漢字の国は塗り潰せるしずっと見てたら死んでしまうし・ねえねえ国はなんこで出来てるの・最低なんこで出来てるの・地図のあんたはなんこで出来てるの・あんたもあたしはなんこで出来てるの・ああそれがあたしにとっての小問題>

 川上未映子さんは、埴谷雄高の『死霊』が大好きだと言う。そう言えば池田晶子さんもそうだったですね、埴谷さんって、もてますね、「ぷふい」
 追記:でもね、僕の好きな柴崎友香もノミネートされている。困りました。投票も出来ますよ、こちらさん経由で、→第137回芥川賞候補作品: 劇団天野屋 part3・一票!、柴崎さんか・川上さんか・それは内緒です。